INTERVIEWEE
竹田 陸央(たけだ りくお)
東洋大学 社会学部 メディアコミュニケーション学科 4年
北海道出身。小・中学校時代は野球、高校時代は陸上部に所属し、インターハイにも出場。得意種目はボードレースとビーチラン。2019年、第10回全日本学生ライフセービング・プール競技選手権大会に出場し、大学史上初となる3位表彰台に貢献した。東洋サーフ・ライフセービングクラブ2018年度主将
佐藤 里咲(さとう りさ)
東洋大学 法学部 法律学科 3年
福島県出身。中・高校時代は陸上部に所属。大学1年生のときに出場した全日本学生選手権、全日本選手権ともにビーチスプリント競技で準優勝。2018年には、全日本学生選手権のビーチスプリントで準優勝。ハイパフォーマンスチームに選抜され、福岡で開催された国際大会「三洋物産 インターナショナル ライフセービングカップ 2018」に日本代表として出場した。東洋サーフ・ライフセービングクラブ2019年度副将
東洋サーフ・ライフセービングクラブ
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ライフセービングは、水難事故を未然に防ぐ活動である
――ライフセーバーというと、身近なところでいえばプールの監視員や、夏の海水浴場で溺れている人などを助ける人、というイメージがありますが、そもそもライフセービングとはどのような活動をいうのか、教えてください。竹田陸央(以下、竹田) 溺れかけている人を助けるという“人命救助”もライフセービングの重要な活動のひとつですが、それよりも水辺の事故を未然に防ぐことが活動の目的になります。たとえば海水浴に遊びに来ているお客さんに積極的に声をかけて、エリアや海の状況などを説明し、お客さん自身が事故に遭わないよう意識してもらうことをお願いします。
佐藤里咲(以下、佐藤) 私たちが監視するのは、海だけでなく浜辺も含めた海水浴場すべてのエリアになります。風が強い日には、風でパラソルが飛ばされて人に当たってケガをさせてしまうといった危険も十分に考えられます。そうした事故を未然に防ぐためにできることのひとつが“声かけ”です。海の状況を伝えることで、家族ならば親が注意して子どもを見守ってくれる。そうすることで、事故が起きる可能性が少しでも小さくなります。とてもシンプルなことですが、この声かけひとつで防げることはたくさんあるんです。
――“海の状況”とは、具体的にどのようなことを伝えるのでしょうか?
竹田 遊泳情報には、大きく「遊泳可」「遊泳注意」「遊泳禁止」の3段階があります。それぞれ青、黄、赤の旗を砂浜に立てたり、放送などでお知らせするのですが、その指標となるのが、気象状況のほか、私たちが「五水」と呼んでいる海の状態です。 具体的には、水温、水流、水質、水底、水深の5つを朝8時、11時、14時の1日3回測り、海の状態を把握して海水浴場を開放し安全かどうかを判断します。特に小さなお子さんがいるご家族の方には気をつけてほしいのですが、海は波打ち際でも潮の流れ、水流があります。見た目は穏やかでも水流が少し激しいときなどもあるため、こうした日は、「遊泳注意」として注意するように促します。
佐藤 それに浅瀬と思っても急に深くなっているところがあったり、さらに潮の満ち引きで午前中は足がついていたけれど、午後になったら足がつかなくなることもあります。海は30分でも状況が変わるので、注意しなければなりません。こうした情報は、海水浴場によってパトロール小屋近くのボードなどにも書き込んでいるので、海水浴場に着いたら遊ぶ前にチェックしてもらいたいですね。
――ライフセーバーは、その海のことをよく知っている必要がありますね。
竹田 はい。潮の流れや地形などを熟知して、リスクがあるところを把握しておかなければならないので、海に行く回数、海で行う練習は必然的に増えていきます。私たちのクラブでは、1年生のときに担当する海水浴場を決めたら、基本的には4年間、同じ場所で活動を行いますが、それは自分が担当する海のことをより深く知るためなんです。
――そうした活動を行っても、事故が起きてしまうことはあると思います。もしも溺れそうな人を発見したら、どのように行動するのでしょうか?
竹田 発見したら、とにかく引き上げることを最優先に考えます。レスキューには大きくチューブを持って泳いで行って助けるのと、レスキューボードを漕いで行って助ける方法の2種類があります。“ファースト”と呼ばれる第一発見者が、引き上げるための最善策を瞬時に判断してレスキューに向かいます。
佐藤 レスキューで重要なのはスピードです。1秒でも早く救助することで助かる確率が上がるので、ファーストが女性でももちろんレスキューに行きます。そのためには、体力だけでなく、判断力の早さが求められます。救助の対象が小さい子どもや女性の場合、女性ライフセーバーがレスキューに行ったり、ケガの応急処置をするほうが、より安心感を与えたりすることができますね。レスキューの現場には、女性だからこそ貢献できることもいっぱいあります。
――体力的に厳しいと感じることはありませんか?
佐藤 体力差はありますが、ライフセービングには男性、女性は関係ありません。ただ、もしも複数人の溺者がいたり大柄の人が溺れていたりしたら、ファーストとして向かうと同時に声をかけ、セカンドと一緒に行くような場合もあります。その判断もファーストが瞬時に行わなければいけないので、やはり日頃からいろいろなシチューションへの対策を考えておくことが大事ですね。
――ライフセーバーがいない海で事故を目撃した際は、どう対応するのがよいでしょうか?
竹田 助けに行って溺れてしまうという二次災害を防ぐためにも、「119番」で消防を呼んでもらうことをお願いしています。陸地から離れた沖での事故の場合は、海上保安庁の「118番」への連絡でも大丈夫です。
――ライフセーバーの1日の活動は、どのようなスケジュールになりますか?
竹田 海水浴場によっても異なりますが、たとえば私と佐藤が拠点としている千葉県銚子の海水浴場のライフセービングは、朝4時半に起床して、任意で各自6時すぎまで朝練を行います。6時半から朝食を食べた後、8時頃から始まる遊泳時間に備えて練習・準備を行い、16時まで監視業務。お客さんを見送りながら海のゴミ拾いなども行い、16時半から18時半まで夕練。あとは夕食後、20時から1時間ほどミーティングを行って、1日の活動は終了です。消灯は22時半。ほとんどのメンバーは、布団に入った瞬間に寝ていますね(笑)。 海水浴のシーズンは、だいたい7月第1週から8月最終週まで続きますが、7月前半の週末はフルで、平日は授業の合間をぬいながら海へ行きます。大学が夏季休暇に入ってからは、現地に泊まり込みでトレーニングと監視業務を毎日行います。
――いざというときに備えて、とにかく体を鍛えて経験を積むのですね。海水浴シーズン以外は、どのような活動をされているのでしょうか?
竹田 監視業務以外は、ほぼ夏と同じですね。平日は、大学で体力づくりをしたり、ときにはプールや海にいってトレーニングしたり。冬もウェットスーツなどを着て海でのトレーニングを行います。だから基本的に1年中、週末は海に行っていますね。僕はいつでも練習できるように、海の近くに引っ越しました(笑)。
「ゴールの先に、救う生命がある」ライフセービング競技会
――2019年の2月に行われた第10回全日本学生ライフセービング・プール競技選手権大会では、男子チームが大学史上初の表彰台となる総合3位に入りました。ライフセーバーにとって、競技会はどのような位置づけになるのでしょうか?竹田 もちろん、クラブとして競技会に参加し、上位に入ることは大きなモチベーションにつながります。ただ、ライフセービングスポーツは「ゴールの先に、救う生命(いのち)がある」という理念を掲げています。ほかのスポーツと異なるのは、自分あるいはチームのために練習をして大会で上位に入ることを目指すのではなく、ライフセービングは助かる命を救うために競技の練習をする、という考え方で取り組んでいます。
佐藤 競技会に参加するのは、人を助けるため。だから私たちは、競技会を活用してライフセーバーとしての自分のスキルを高めることを目標に競技に取り組んでいます。トレーニングしたことが、人を助けることにつながる。鍛えたことが誰かのためになる。これは、ライフセービングの魅力であり、私がライフセービングの活動を続ける大きな理由でもあります。
竹田 佐藤は、ハイパフォーマンスチームと呼ばれる日本代表候補に選抜され、2018年6月に福岡県で開催された国際大会「三洋物産 インターナショナル ライフセービングカップ 2018」にも出場しました。メンバーのなかでも意識が高く、僕ら男子も刺激を受けています。
画像:三洋物産 インターナショナル ライフセービングカップ 2018にて
――国際大会に出場してみて、何か感じたことはありましたか?
佐藤 海外のライフセーバーと比べると、日本選手は体の線が細い。圧倒的なパワーの差を痛感しました。ライフセーバーとしてのスキルを高めるためにも、やっぱりあの舞台にもう一度立ちたいと思っています。2020年にイタリアで開催されるワールドカップへ出場することが、今の私にとって大きなモチベーションになっています。
水難事故を少しでもゼロに近づけるために
――そもそもおふたりは、なぜライフセーバーになろうと思ったのでしょうか?
竹田 僕は北海道出身で、小・中学校では野球、高校では陸上をやっていて大学でも何かスポーツに打ち込みたい、その中でもやるからには新しいことにチャレンジしてみようと思っていました。ライフセービングは、高校の先輩が他大学でやっていたこともあって少し興味があったんですね。でも実際にどういう活動をしているのかは知らなかったので、入学後にクラブの活動などに参加して入部することを決めました。
――決め手は何だったのでしょう。
竹田 色黒でみんな体格も良くて、シンプルに先輩たちがかっこよかったというのはあります(笑)。でも何よりも僕が惹かれたのは、先輩たちの話や、実際に練習に取り組む姿勢を見て、自分たちの活動に誇りを持っているということでした。そのメンバーのひとりとして、僕もライフセービングの活動に参加してみたくなったんです。
佐藤 私は将来、警察官か消防士になりたいという目標があり、そのためには何か資格を持っていたほうが武器になるのではと思ったのが、ライフセービングに興味を持ったきっかけです。もともと体を動かすことは好きだったので何か運動部に入ろうとは思っていましたが、いろいろ考えた結果、最終的には人命救助に関わる活動に魅力を感じて、クラブに入部しました。
――ライフセービングの難しさ、その一方でのやりがいは、どのようなところにありますか?
竹田 やはり、人命救助という人のために役立つ活動であることがやりがいですね。僕たちはそのことに誇りを持って活動しています。難しいと思うのは、“正解がないこと”ですね。仮に助けたとしても、それが最善の方法だったのかはわかりません。突き詰めれば、もっといい方法があったのではないかと日々、考え続けています。それが、難しさであり、やりがいでもあります。
――単に救助できたらいいというわけではない、ということですね。
竹田 たとえば、助かったとしても後遺症が残ってしまったり、溺れたときの恐怖心から海が怖くなって遊びに行けなくなった、ということも考えられます。だから、事故を防ぐだけではなく、事故に遭ってしまったとしても、またいつか海に戻ってきてくれるような、そんなレスキューを追求していきたいと思っています。
――守る、だけではなく、海で遊ぶことの楽しさを伝えることも、ライフセーバーの役割だということですね。では、これからのおふたりの目標を教えてください。
竹田 日本では海外に比べて、ライフセービングは特別な人しかできないと思われがちなところもあるので、私たちのクラブは少しでもライフセービングを広めていくことをクラブの理念として掲げています。ライフセーバーは誰にでもできるということを知ってもらい、ひとりでも多くのライフセーバーを輩出すること。それが、水難事故を少しでもゼロに近づけることにつながると考えています。
佐藤 そうですね。ほかの大学のライフセービングクラブは体育会の部活動が多く、ハイパフォーマンスチームのメンバーは高校からライフセービングをやっていたという人も数多くいます。大学の体育会ライフセービング部にはそうした猛者が集まるので、大学からライフセービングをはじめる“きっかけ”が少ないんです。 それに対し、東洋サーフ・ライフセービングクラブは、大学のライフセービングクラブとしては珍しく体育会団体ではないサークルなので、大学からライフセービングをはじめたというメンバーがほとんどです。全日本学生選手権では、高校から活動を続けるメンバーが多い体育会ライフセービング部が上位を占めるなか、このチームが男子総合3位に入ったことはとてもすごいことなんです。個人の話でいえば、大学からライフセービングをはじめた私でも日本代表候補チームに入れる、活躍できる、その可能性をあらためて示したいと思っています。
竹田 志があれば、ライフセービングは大学からはじめられるし、悩みが尽きることはないけれど、やりがいは大きいです。そのことを発信していければと思っています。大学4年間で“何か人のためになること”をやりきりたい、と思ったら、ぜひ東洋サーフ・ライフセービングクラブの活動を見てほしいと思います。