INTERVIEWEE
塚本 将也
TSUKAMOTO Masaya
プロサーファーでありながら、どうして東洋大学国際学部に入学したの?
画像:塚本さんがサーフィンをしている様子(Photo by.Andrew Carruthers)6歳の頃からサーフィンを始めたという塚本さん。 元々は、毎週末のように海へサーフィンに行く、サーフィン好きの父親について行っていたのがきっかけだったとか。
そんな彼は、高校2年生(2015年)からプロサーファーとして活躍し、今年(2017年)の4月には、インドネシアで行われた『JPSAジャパンプロサーフィンツアー2017 ロングボード第1戦』で見事初優勝を果たしました。 プロサーファーとして忙しい塚本さんですが、どうして東洋大学国際学部国際地域学科に入学を決めたのでしょうか。
「元々僕は中学生くらいまで、かなりシャイで初対面の人と全然話せませんでした。 でも中学2年生の時、初めてサーフィンで海外に行ったんですよ。インドネシアです。 その時、誰とも話せなくて。サーフィンでは充実した時間を過ごせたんですが、帰国した時にすごく後悔したんです。」
ーサーフィンを目的に渡航したのであれば、サーフィンのみ充実していれば良さそうですが…。 誰とも話せなかったことが、そんなに問題だったのでしょうか?
「両親にお金を出してもらって行く以上、吸収できることは全部吸収しなきゃいけないと思ったんです。 サーフィンだけなら極端な話、日本でもできますよね。 せっかく海外に行ったんだから、そこで人との繋がりを作って、その人たちから自分が知らないサーフィンの知識を学んだり、人として大切なことを学んだりするべきだったと思うんです。」
ー中学2年生の時に、そこまで考えられるってすごいですね…! 現在はすごく社交的なように見えますが、どうやって人見知りを克服したんですか?
「次の年、中学3年生の時に、またインドネシアに行く機会があって。前の年と同じ後悔は絶対にしたくないと思ったので、海で会った人に“今日は波が良いね”とか些細なことを話しかけるようにしました。 サーフィンという共通の話題があるので、いざ話しかけてみるとどんどん色々な人と仲良くなって。学ぶことが多くなったし、人としても社交性がある人間に成長しました。当時は“話しかけてみればこんなに楽しいのに、今まで何を怖がってたんだろう”と損をした気持ちになりましたね。」
ー海外2回目にして、1回目の反省を活かして行動に移せるというのはすごいことですね。
「やっぱり、できていないことは改善していきたいし、根が負けず嫌いなのかもしれません(笑)。 そんな経験があって、人と話すことが好きになったし、英語でコミュニケーションをとることも多くなったので、得意なことを伸ばしたくて自分のコミュニケーション能力・語学力が活かせそうな学部に入学しようと思いました。 入学してみると留学生が多く、キャンパスにいながらもネイティブの人たちとコミュニケーションをとれるというのも良かったです。」
ー大学に行かず、サーフィンに集中して取り組むという選択肢はなかったんですか?
「なかったですね。サーフィンって、プロでもそれだけで食べていくのは難しいんです。僕がやっているのはロングボードなので、2020年のオリンピック種目になったショートボードに比べて、さらに稼ぐのが難しいんですよ。
それに、プロとして活躍できるのも若いうちだけだと思っているので、その後の人生を考えても、大学に行って教養や専門知識を身につけ、さまざまな経験をしておいた方が良いと考えました。」
朝4時起きで通学前にサーフィン!?大学1年生とプロサーファーの両立
まだ18歳とは思えないほど、しっかりとした考えを持っている塚本さん。 しかし、実際どのように大学生活とサーフィンを両立しているのでしょうか。具体的なスケジュールと、両立において苦労していることを、精神的な面と体力的な面の双方からお伺いしました。「まだ大学に入学したばかりなので、授業は週5日で入っています。 1日だけ朝9時から授業の日があり、それ以外の4日間はすべて午後からです。 サーフィンは、週3〜4日くらい…2日に1回はやっています。」
ーということは、大学の授業とサーフィン、両方を行う日もあるということですね。 そういった日は、どんなスケジュールなんですか?また、どこの海でサーフィンをしているんですか?
「サーフィンは、千葉県の東浪見(とらみ)という場所でしています。房総半島の外側にある海です。 僕がサーフィンをするために、両親が東浪見に専用のアパートを借りてくれているんですよ。本当に有難いです。 実家は千葉県に近い東京都、授業は東京都文京区の白山キャンパスで受けているので、サーフィンと授業の両方を行う日は…
といった感じのスケジュールですね。」
ー全く無駄な時間がないですね…! サーフィンに行かない日は、どういったことをされているんですか?
「大学の課題をやったり、テストの勉強やレポートをしたり。 あと、夜ジムに行って体を鍛えたりしています。サーフィンのために、体作りはかかせないので。」
ー大学の友人と遊びに行ったり、ご飯を食べに行ったりしないんですか? 「もっと遊びたいな。」「もっと自由な時間が欲しいな。」とストレスが溜まることもありそうですが…。
「大学の友達とも遊びますよ。でも、帰りが遅くなってしまって次の日のリズムが崩れてしまうと、やっぱり大変な時もあります。 大学もサーフィンも、親やスポンサーの方々にお金を払ってもらっているから続けられるし、ファンの方々も応援してくださっているので。
何より、とにかくサーフィンが好きで、サーフィンをしている時間が1番幸せなので、“もっと遊びたい”とストレスが溜まることはないですね。 でも、この間大学の友達が“サーフィンを教えて欲しい。”と言ってきて、友達2人と僕で東浪見の海に行ったんです。みんなで東浪見のアパートに泊まって朝からサーフィンして、午後から授業を受けて、すごく楽しかったです! 友達2人もサーフィンが好きになって、“また行こうね”と言っていて。 そんな風に、僕がやっていることに興味を持ってもらえたら嬉しいですし、僕がきっかけでサーフィンを始める人、サーフィンを好きになる人が増えたらいいですね。」
画像:塚本さんがサーフィンをしている様子(Photo by.Andrew Carruthers)
ーそれはすごく楽しそうですね! 大学の友人は、サークル活動などで増えるイメージがあるのですが、塚本さんはどのように友人作りをされているんですか?
「僕、授業を一緒に受けている人とかに、積極的に話しかけるんですよ。 話したことがない人でも、“おはよう。今日暑いね。”って挨拶したり、“この授業難しいね。”って話したり。 基本的に、目が合ったら誰でも話しかけちゃいます(笑)。 同じ学部で同じ年齢なんだから、共通の話題もたくさんあるし、友達になれないはずがないと思うんです。 こんな風に考えられるようになったのも、サーフィンのおかげですね。」
ー中学2年生の時からは考えられないくらい、本当に社交的になったんですね。 サーフィンと学業の両立に対して、精神的なストレスはないようですが、体力的な苦労はないんですか?
「正直疲れが溜まる時もあるし、体調管理は大変ですね。 栄養を摂るために食事には気をつけています。とにかくたくさん食べるようにしていて、タンパク質、炭水化物、ビタミンもきちんと摂るように心がけています。 あと、本当に疲れが溜まっている時は、サーフィンがない日の午前中などに“休憩”っていう時間を作ります。」
ー“休憩”の時間は具体的に何をされるんですか?
「睡眠をとってしまうとその日の夜に眠れなくなって次の日に響いてしまうので、部屋の掃除をしたり、読書をしたりして、体を休めるようにしています。 基本的に僕の毎日は“大学の授業”と“サーフィン”が中心になっているので、そのどちらかがない時は、その時間に“休憩”や“勉強”、“遊び”を入れたり、試験期間など他に優先しなければならないことがある時期は“サーフィン”の時間を削ったりします。
スケジュールがすべて決まっている毎日は大変そうに思われるかもしれませんが、慣れてしまうと、逆にスケジュール通りにいかなかった時の方が後悔して、ストレスに繋がったりします(笑)。」
サーフィンと大学生活、その両方があるからこそ見えてくる将来
画像:波に乗る塚本さん(Photo by.Andrew Carruthers)
限られた時間を有効に使い、どちらも疎かにすることなく、文字通り文武両道ができている塚本さん。 一見交わりそうにない“大学の授業”と“サーフィン”ですが、サーフィンの経験が授業に活きること、授業で教わったことがサーフィンに活きることはあるのでしょうか。また、卒業後はどういった進路を考えているのでしょうか。
「最初にお話したように、サーフィンがあったからこそ、人と話すことや語学が好きになり、今の学部に入学しました。 あと、サーフィンって自然を相手にしているので、誰かに教わるというよりは自分で経験を積んで考えないといけないことが多くて。例えば、大会に出場するにしても、自分の出番のときにどんな波がくるかは誰にも分からない。
だから、“小さい波がきたらこう乗ろう”とか、“今日の潮の流れはこうだからこうした方が良いな”とか、自分の経験と知識を頼りにとにかく頭を使うんです。頭の中で仮説を立てて、それを波の上で検証してみる。 そういったことを繰り返しているので、スケジュール管理にしても、勉強の進め方にしても“これをできるようにするには、こうしないといけないな”って自分で考える癖がついたと思います。」
ーサーフィンの経験は、勉強の進め方や日々のスケジュールの立て方にも活かされているんですね。
「はい。 サーフィンに活きていることとしては、第二外国語で中国語を習い始めたのが大きいです。今まで、サーフィンで繋がった海外の人とは英語でしかコミュニケーションをとれなかったんですが、最近、サーフィンで中国の人に会ったら授業で習った中国語を使ってみたりしています。 まだ中国語でスムーズに会話ができるわけでないんですが、やっぱり少しでも相手の母国語で話しかけると、反応も全然違いますね。」
ー授業で習った単語を、すぐに実践する場があるというのはすごく良いことですね! 卒業後はどんな進路を考えているんですか?
「卒業後は、まだはっきりと決めていませんが、できれば海外でサーフィンと繋がりのある仕事をしたいですね。 でもサーフショップやボード職人とかは、もうやっている人がたくさんいるので難しいだろうな。 大学では語学以外に国際的な貧困問題やNPOについても学んでいるので、そういったこととサーフィンを繋げられたらすごく良いだろうなと思います。
例えば、経済的に貧しい国でも海が綺麗な国って多いじゃないですか。そういった国でサーフィンを広めて、世界中にいるサーフィン愛好家たちの注目を集めて観光地化したりとか。 今、アジアでサーフィンブームがきていて、台湾や中国はサーフィンのために政府がお金を出したりしているんですよ。だから、サーフィンでできることってもっとあると思うし、大学で学んだことを活かしてもっと多くの人にサーフィンの楽しさを知ってもらえたり、サーフィンがきっかけで幸せになる人が増えたら最高ですね。」
“やること”の時間を決め、“その時間はそれ以外のことをやらない”を徹底しよう
スケジュールだけを見ると、とてもハードな毎日を送っていて、時間のやりくり、体調管理が大変そうな印象を受ける塚本さん。しかし、話を聞いてみると予め“この時間はこれをする”としっかり決めているからこそ、その時間にやるべきことに集中して取り組めているようです。 例えば、“休憩”も時間を決めていない人は、いつまでもダラダラしてしまったり、休憩中に頭や体を使うことを始めてしまったりして、しっかりと休めません。しかし、塚本さんのように“○時〜○時は休憩する”、“○時〜○時の間に試験勉強を終わらせる”と予め決めておくと、非効率的な作業や時間を無くすことができます。 さらに、サーフィンと学業、その両方を続けているからこそ、片方で培った経験が、もう片方に活きていたり、視野が広がり、卒業後の進路にもさまざまなアイディアがありました。
一見交わりそうにない2つの事柄も、両立を続けることで繋がってくる部分が生まれ、そして片方に集中するだけでは見えなかった世界が見えてきます。 学業以外にやりたいことがある人、やらなければならないことがある人は、どちらかを疎かにするのではなく、塚本さんのようにそれぞれに充てる時間を予め決めておき、その時間はそれ以外のことをせずに、集中することを徹底してみてください。 慣れるまでは難しいかもしれませんが、頭の切り替えを上手に行えるようになることが両立の第一歩です。両方を続けることで、塚本さんのように、片方の経験だけでは見えなかった、新たな世界や進路が見えるかもしれません。