INDEX

  1. 「他者からの視点」と「他者へのリスペクト」がチーム力向上のカギ
  2. 一人ひとりが主体性を持ち活躍する、フラットな組織へ
  3. スタッフと選手、上級生と下級生の間に立ち、チーム全体へ行動を促していく
  4. 受け継がれてきたチームの力を結集し、いざ箱根路へ

INTERVIEWEE


酒井俊幸
SAKAI Toshiyuki

東洋大学 陸上競技部(長距離部門)監督



前田義弘
MAEDA Yoshihiro

東洋大学 陸上競技部(長距離部門)主将
東洋大学 経済学部経済学科 4年



児玉悠輔
KODAMA Yusuke

東洋大学 陸上競技部(長距離部門)副主将
東洋大学 経済学部経済学科 4年



田中智也
TANAKA Tomoya

東洋大学 陸上競技部(長距離部門)主務
東洋大学 経済学部経済学科 4年



佐藤真優
SATO Mahiro

東洋大学 陸上競技部(長距離部門)3学年主任
東洋大学 総合情報学部総合情報学科 3年 

「他者からの視点」と「他者へのリスペクト」がチーム力向上のカギ



――まずは、酒井俊幸監督にお話を伺います。駅伝はチームで結果を競う競技ですが、一人一人のタイムが重要な意味を持つ側面もあると思います。駅伝におけるチームワークについて、監督はどのようにお考えでしょうか。


駅伝は個人の力を結集させてチームの記録を作るスポーツではありますが、実はチームワークはとても重要な要素を占めています。その理由の一つとして、自分が見ている風景からだけでは、自分の実力や「自分自身はどういう人間なのか」を正確に把握することはできないからです。誰かと一緒に走り、前から・後ろから、または横から見られることによって、はじめて自分の姿がどう映るかを第三者の視点で意識することができます。自分の走りの良い面や改善すべき点は、他者からの視点があってこそ見つかるものなのです。

東洋大学の駅伝チームでは、毎朝5時からトレーニングをしていますが、走ることが好きで、良い結果を出すために努力できる選手たちでも、やはり早朝練習にはネガティブな感情を持ってしまいがちです。しかし、一人ではなくチームで練習するからこそ、朝早くから前向きな気持ちで取り組めるのではないかと考えています。「部員のみんなが真剣に取り組んでいるから頑張ろう!」「走らないスタッフたちも早起きして支えてくれているから、自分も頑張らないと!」という気持ちは、一人だけの練習では決して生まれないものです。みんなで練習をすることで生まれるチームの一体感が、大会当日の団結力にも良い影響を与えると思っています。

――仲間の存在が、一人ひとりのパワーやチーム全体の雰囲気向上にもつながり、最終的にはチームとしての結果にも還元されるということですね。

駅伝に限ったことではないと思いますが、アスリートは一人では強くなれません。必ず色々な人たちの支えがあって成長できるのです。また、大学駅伝に関しては一つのチームの中で学年、年齢の枠を超えて支え合うことが大切になります。そうしたときに、自分一人だけを基準にした目線をもっていては良い選手にはなれない、と私は考えています。上級生が下級生の模範になるのはもちろん、1年生が4年生に思い切って意見を言えるようなチームであってほしい、ということは監督として常々考えていることです。下級生が上級生に遠慮して意見を言えないようでは、レース本番で下級生は力を発揮できないでしょうし、上級生も下級生の意見をリスペクトできないようであれば、個人としての成長は見込めないと思います。ある程度の規律は必要ですが、チーム全員が力を高め合うためには、規律だけではなく、こうした「他者からの視点」と「他者へのリスペクト」が重要になるのではないでしょうか。

――上級生から下級生までの全員が“他者”であるチームメイトの存在を意識した上で、長距離部門ではどのようなチームを目標として活動しているのでしょうか。

成績に関しては、やはり第99回箱根駅伝の総合優勝が目標ですね。その目標を達成するためにも、2022年度は「全員がリーダーシップを発揮できる参加型のチーム」を目指しています。長年、「自主性」「自立」「他人事にしない」といったことをキーワードにしてきましたが、一人ひとりの課題をチーム全員が共有し、全員でチームの総合力を上げようという認識を浸透させることが重要だと感じ、近年はこれまでのキーワードに加えて「リーダーシップ」「チームビルディング」も意識しています。監督や主将がトップダウンで指示をするのではなく、部員一人ひとりが「自分はチームのために何ができるのか?」「自分のどんな力を磨けば組織のためになるのか?」と考え、行動することが必要不可欠だと考えています。

「組織のために」という考え方は、練習だけではなく大会本番でも役立ちます。レース中は監督や主将が常に隣で指示をできるわけではありません。普段から自分の走りがチームに及ぼす影響を考えることで、レース中も広い視点でチームの最終成績に意識を向けることができます。私が学生たちに話すのは、「自主性は決められたことをやること。主体性は何もないところから新しいことを見つけること。主体性を持って、新しいところからエネルギーを生み出そう」という言葉です。一人ひとりが主体性のもとで練習をした結果、本番で爆発的な力を発揮したときは、やはり私もうれしく思いますね。 
   

一人ひとりが主体性を持ち活躍する、フラットな組織へ


   
――普段から、選手一人ひとりがリーダーシップを発揮して主体的に練習しているということですね。ここからは、選手の皆さんにもお話を聞いていきたいと思います。主将の前田選手は、普段からリーダーシップを発揮するために意識していることなどはありますか。


監督がお話されていたように、自分が先導するというよりも、一人ひとりが本来持っているリーダーシップを発揮できるよう、促すのが主将の役割だと考えています。このような考え方に至ったのには、私が1年生だったときに主将を務めていた相澤晃さん(2020年卒業、旭化成所属)の影響が大きいですね。相澤さんは、走りでも言葉でもみんなを引っ張っていく存在で、「この人についていきたい」と思える理想のリーダーでした。一方で、私は相澤さんのようなリーダーシップとは異なるタイプだと自覚しています。そのため、みんなを支えながらチームを誘導していくようなリーダーになれたらと思っています。

例えば、寮での共同生活や練習前後のミーティングでは、誰でも気軽に発言できるような雰囲気を作ることを意識しています。また、ミーティングでは雰囲気づくりだけではなく会議の仕組みも整えました。大人数で集まると、発言者が偏ってしまいやすいですし、人によっては発言することに抵抗を感じる場面もあると思います。そのため、少人数のグループにわけてディスカッションをしたり、上級生・下級生混合のグループを作って意見の出し合いをしたりといった工夫をするようにしています。

また、私たちの代が運営をするようになってからは、ミーティングの仕組みだけでなく頻度も変更しました。特に大会の前後は話し合うべき課題も多く見つかるため、頻繁に実施するのですが、ただ集まるだけでは意味がありません。「次のミーティングでは何を話すか・何をゴールとするか」ということを事前に副主将や主務などの中心メンバーで話し合い、土台を作ってから部員を集めることを徹底しています。

――ミーティング一つにしても、酒井監督の言葉通り、部員全員がチームのことを考える仕組みが出来ているのですね。副主将の児玉さんも、下級生が意見を出しやすい空気を作ることに注力しているそうですね。



良いチームを作る上で、下級生の意見は欠かせないと考えています。厳しい言葉をただ投げかけるのがリーダーではないと思っているため、自分から1・2年生の意見も積極的に聞きにいき、「普段の練習やミーティングに生かせないだろうか」と考えるようにしていますね。長距離部門は、主力メンバーが集まるAチームと、サブメンバーが集まるBチームの二層に分かれて練習しているのですが、下級生だけでなくBチームの選手にも意見を聞きにいくこともあります。Bチームにいるからこそ感じるチームの課題も必ずあるはずですし、チームを良くすることに実力の差は関係ありません。2022年の1月に代替わりをし、最初の頃こそ発言するメンバーは限られていましたが、次第にBチームの選手も思っていることを率直に話してくれるようになったのは、とてもうれしかったですね。

意見を出しやすい雰囲気が整ったことで、練習に積極的に取り組む部員も増えてきたと感じています。Bチームや1・2年生の若手選手が、昨年度のAチーム専用メニューに取り組む場面も増え、チーム全体の実力の底上げにつながってきていると思います。

私は副主将という立場ですが、「主将と副主将に大きな違いはない」と考えています。もちろん、主将のほうが部を代表して発言したり、大事な場面で中心に立ったりすることは多いですが、チームをまとめることに関しては副主将も重要な立場です。酒井監督のお話にもありましたが、「副」のポジションだからといって遠慮する必要はまったくないと思いますね。
    

スタッフと選手、上級生と下級生の間に立ち、チーム全体へ行動を促していく



――主将・副主将のお二人とも、下級生や主力メンバー外の選手が遠慮せず発言できる環境が、良いチームには欠かせないとお考えなのですね。続いて、チームを支えるマネージャーの立場の方にもお話を伺います。田中智也さんは主務を務めているとのことですが、まずは主務の仕事内容について教えてください。


業務の中で大きな比重を占めるのが、学外の方との連絡や折衝です。マスコミへの取材対応や、所属している関東学生陸上競技連盟(学連)に対する大会エントリーなどが当てはまります。チーム作りとは大きな関連性はないかもしれませんが、外部とのやりとりを担当することで「自分たちは多くの方に支えられているのだ」と実感する機会が増えたように思います。取材してくださるメディアの方や、出場する大会の運営に尽力されている方がいるからこそ、私たちは競技に励むことができます。そうした方々への感謝の思いは常に持ち続けていたいですし、部員たちにも忘れずに持っていてほしいと思っています。

――練習の中で、チーム作りを意識する場面はあるのでしょうか。

普段の練習では、マネージャーとしてトレーニングの準備や選手への声掛け、サポートなどを中心に行っています。監督や主将の指示を選手たちへ伝達したり、また下級生のマネージャーやスタッフの意見を選手に伝えたりと、選手とマネージャーの“仲介者”のような立場です。だからこそ、異なる立場の意見を聞いたときには、その内容や意図をできるだけ細かく噛み砕いて考え、自分の言葉に置き換えて伝えるように心がけています。監督がどういったチームにしたいと考えているのか。また、主将や副主将がどのような走りを目指しているのか。それらを伝え、チーム全体へ行動を促していくことが、主務としての自分の仕事だと思っています。

――3学年の学年主任を務めている佐藤さんは、チーム作りで意識していることはありますか。



4年生よりも下級生に近い立場として、1・2年生の選手をまとめ、チームとしての一体感を出すことを心がけています。先輩方のお話の通り、誰か一人だけが目立ったり、発言する人が偏ったりすることのないよう、できるだけ下級生全員に目を向け、話をするようにしていますね。

また、下級生には技術面よりも生活面に関して伝えることが多くあります。東洋大学の長距離部門には、「礼を正し、場を清め、時を守る」と言う部訓があります。挨拶や返事をきちんとすること、掃除や整理整頓だけでなく部活全体に清らかな雰囲気をつくること、そして時間を守ること。これらは下級生のうちから意識し地道に取り組んでいかないと、身に付かないものだと考えています。特に入学したばかりの1年生に対しては、チーム全体をまとめていくために重要なこととして、丁寧に伝えるようにしています。

また、学年主任という立場に関係なく、私個人としても積極的に意見を言うことを意識しています。4年生の先輩の視点と、下級生からの視点には必ず違う部分があるからです。そうした視点のズレを解消していくことは、結果としてチームの成績の向上にもつながると思いますし、陽の雰囲気作りにも貢献できると考えています。
   

受け継がれてきたチームの力を結集し、いざ箱根路へ


合宿でのミーティングの様子


――選手・マネージャーの立場を問わず、部員一人ひとりがチーム全体まで目を向けて練習に取り組んでいることが伝わりました。酒井監督からも、良いチーム作りの秘訣をお聞きできますか。

一つ目は、組織に所属する全員が、自分の意見を客観的な視点で見ることではないでしょうか。自分の考えていることがきちんと言語化できているかということや、発言の意図が正しく相手に伝わっているかということを常々確認していくと、意見の伝達がスムーズに行え、チームとしてのまとまりが出るようになると思います。

二つ目に、リーダーのような立場にある人は、必ず壁にぶつかる場面が出てくると思います。なかなか越えることは難しいと思いますし、悩むことも出てくるでしょう。一人で越えるのが難しければ、ぜひ仲間を頼ってください。仲間と一緒だからこそ壁を超えられることもありますし、壁を越えたときには自分だけでなくチームの実力もアップしているものです。ただし、誰かを頼るときには言葉の使い方も重要です。頼られた相手が「一緒に越えよう」「助けてあげたいな」と思えるように、押しつけや手助けの強要をしないことがポイントです。

――駅伝に取り組む人だけでなく、学生や社会人など、多くの人が実践できそうですね。最後に、第99回箱根駅伝に向けての意気込みをお願いできますか。

箱根駅伝の面白さは、各校がそれぞれの経験や伝統をもとに強いチームを作り、次の世代へ繋いでいく点にあると思います。東洋大学には東洋大学らしい鉄紺の伝統があり、それは他大学の真似では成り立たないものです。2022年度のスローガンである「闘争心をとき放つ走り」で限界を超え、これ以上にない1秒をけずりだして次の走者に繋ぎ、上位争いを演じていきたいと思います。応援よろしくお願いいたします!
 

<箱根駅伝関連コンテンツ>
東洋大学箱根駅伝応援ポータルサイト

『東洋大学報』268号―2022年12月発行
「第99回箱根駅伝 その1秒をけずりだせ!」(P08-10)

 

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