INTERVIEWEE
佐藤 都志也
SATO Toshiya
東洋大学 法学部第2部法律学科 4年
硬式野球部(主将・捕手)
1998年生まれ、福島県いわき市出身。ポジションは捕手。小中学校時代はみまやソフトボール少年団(いわき市立平第六小学校)、いわき市立平第二中学校で内野手として経験を積み、聖光学院高等学校では捕手として二度、甲子園に出場。3年時にプロ野球志望届を提出したがドラフト会議では指名されず、東洋大学に進学。2年生でレギュラー(一塁手)として試合に出場し、春の東都大学リーグ戦では首位打者を獲得、ベストナインにも選出。3年生からは正捕手としてチームを牽引し、大学日本代表にも選ばれる。2019年度、主将。強肩強打に加え、50mを5秒9で走る走力も兼ね備えた野球センスは、プロ野球球団からも注目を集める。
チーム力で戦い、大学日本一の奪還をめざして
――今年のチームスローガンは、「奪還」「チーム力」。これはどのように決められたのでしょうか?
「選手全員で考えました。まず学年ごとに案を考えてもらって、その案を幹部と各学年の代表が集まって話し合いながら決めました。
『奪還』は、昨年(2018年)秋の東都大学リーグ戦で優勝候補筆頭と言われながら逃してしまった優勝旗を奪還すること、そしてもうひとつ、しばらく遠ざかっている大学日本一の座を奪い返そうという意志を込めました。
そのためには、絶対的な『チーム力』が必要だと考えました。昨年は、プロ野球に進んだ中川さん、上茶谷さん、甲斐野さん、梅津さんを筆頭に、個の力が際立った4年生の選手が多く、とてもレベルの高いチームでした。でも今年は、先輩方のような圧倒的な個の力で勝負できる選手がいない。では、どのように戦えばいいのかと考えたときに、たどり着いたのが『チーム力』です。個で戦うのではなく、東洋大学硬式野球部の全部員で戦うチーム力が備われば、昨年のチーム以上の力を発揮できるはずだと考えています。」
――具体的には、どのようなチームづくりを行い、またどのような意識をメンバーに持たせたのでしょうか?
「これまで東洋大学は3・4年生を中心にレギュラーメンバーを選出することが多かったのですが、今年は1年生、2年生の力も結集して全員で勝つ方針を打ち出しています。しかし、僕ひとりがそう思っていても、1年生が4年生と一緒にやるときは、やはり多少なりとも気を使ってしまう。だから、まずはそういった雰囲気を変えていこうと思いました。普段の生活では先輩・後輩の礼儀は守りつつも、野球のグラウンドに入ったら学年に関係なく実力を競い、意見交換ができるような雰囲気をつくり、仕組みや体制も変えました。」
――部の体制としても、髙橋昭雄前監督が勇退され、昨年から杉本泰彦監督に変わりましたね。
「今のチームづくりをめざすにあたり、杉本監督の影響も大きいです。選手の自主性を重んじて、多くの選手にチャンスを与えてくれます。さらに、試合でいろいろな選手を起用してくれるのでチーム内の競争は活性化し、僕らが描いていたチーム力で勝負するための土台を築いてくれました。昨年までの実力を持った4年生がどっしり構えているチームも強かったですが、今年のチームはまた違った魅力を持っています。」
理想のキャプテンシーとは?
――今年の春のオープン戦では3連敗するなど、幸先はあまり良い出だしではありませんでした。昨年のレギュラーが5、6人抜けて、投手陣も上茶谷選手、甲斐野選手、梅津選手の3本柱が抜けるなど、厳しいスタートだったと思いますが、不安などはありましたか?
「オープン戦のときはまだチームがまとまっていなくて、たしかに不安はありました。守っていてもエラーなどで失点することも多く、3、4点は取られるので、5点取らないと勝てないという状況でした。“今年の東洋は弱い”。周りからはそう思われていたと思います。
でもその一方で、昨年のように優勝して当たり前と言えるほど強い個がいない今年のチームがもし優勝できたなら、それはすごく価値のあることだという楽しみもありました。『ミスを恐れずに立ち向かっていこう。たとえメンバーがエラーしたり、ピッチャーが打たれたりしても、かならずカバーしあって粘り、最後には勝とう』ということをチーム内で言い続けました。それが、僕らの、今年の東洋大学硬式野球部の戦い方だと。」
――その結果、春の東都大学リーグ戦ではねらい通り勝ち続け、見事に優勝。しかも対戦した大学すべてから勝ち点を奪う完全優勝で王座奪還を果たしました。
「優勝できた原動力といえば、MVP、最優秀投手賞を獲得した村上頌樹(投手)の活躍が第一に挙げられます。村上は本当にすばらしかったですが、同時に彼の6勝0敗という活躍を支えたのはチームです。絶対に負けないという強い気持ちが全員にあったので、1試合、1試合粘り強く戦えたことが、優勝できた最大の要因だと僕は思っています。チーム一丸となって戦っていくなかで、選手にも自信が芽生えてチームが成長していくことが実感できた。だから優勝できたときは、本当に嬉しかったですね。」
――佐藤さんが考える理想のキャプテンシーはありますか?
「前主将の中川圭太さん(現・オリックス・バファローズ)のような“背中で見せる主将”が理想的だと思っています。『俺が何とかするから、お前はお前のプレーをしろ』と言われて何度も助けられました。僕もそんな主将になりたいと思っています。
でも、『奪還』『チーム力』のスローガンを決めたとき、背中で見せてチームを引っ張っていくだけでなく、メンバーと同じ目線で背中を叩きながら一緒に戦っていく雰囲気や環境をつくることもつねに意識してきました。その結果、周りのサポートもあって、全員で戦う意識が自分の思っている以上に早く、深く浸透していって、すごく良いチームに仕上がってきたなと思っています。学年に関係なく、選手それぞれの立場から自ら行動したり意見が言えるチームになっていますね。
先頭に立って引っ張るのではなく、自分はメンバーと同じ目線でチームの輪の中心にいればいい。春のリーグ戦を終えたとき、それが今年のチームなんだと思いました。だから、僕がいま思う理想のキャプテン像も少しずつ変化していますね。」
感謝と誇りを持って挑む
――佐藤選手は、聖光学院高等学校(福島県)野球部で1年生のときから正捕手として活躍し、2年生、3年生の夏の甲子園にも出場。プロ野球志望届を提出しましたが、残念ながら夢は叶いませんでした。あれから4年が経ちましたが、ドラフトを前にした現在の心境を教えてください。
「もちろん、ドラフトで指名されてプロ野球選手になる夢はありますが、今はそこまで考えていないです。これまで一緒にやってきた仲間と戦うのは今シーズンで最後なので、残りの試合を大切にしたい。もちろん笑って終わりたいので、最後のリーグ戦で優勝することだけを考えています。
4年間、本当にこのチームにお世話になりました。中川(圭太)さん、髙橋前監督には、マンツーマンで打撃を指導してもらったこともありました。そのおかげで2年生のときの春のリーグ戦では首位打者にもなれました。もともと僕は、守備と足には自信がありましたが、バッティングはそこそこ。4年前に提出したプロ野球志望届の自己アピールをする欄には“守って走れて、ちょっこっと打てる選手”というようなことを書きました(笑)。バッティングは本当に東洋大学の4年間で伸ばしてもらったと思っています。」
――高校卒業後の進路としていくつか選択肢はあったと思いますが、そのなかからなぜ東洋大学を選んだのでしょうか?
「実は高校のとき、ドラフトで指名されず、地元の大学に行こうと考えていました。しかし、東洋大学から熱心に誘っていただき、高校の監督や部長と相談したら『お前は本気でプロ野球に行く気はあるのか?』と逆に聞かれました。そのとき僕は『(ドラフトで指名されなかったことを)見返したいです』と伝えたら、『ならば東洋大学に行って、埋もれてもう一回這い上がってこい』と言われました。
東洋大学は、レベルが高い。レギュラーになれる保証などまったくない。甘えで地元に残るのではなく、そうした厳しい環境で揉まれて這い上がっていく力がなければ、プロ野球では通用しないと。
結果的に、本当にこの環境で野球人としても、ひとりの人間としても成長できたと思っています。杉本監督からも、チームメイトからも多くのことを学びました。いろいろな経験をさせてもらって本当に感謝しかない。だから残りの時間は恩返しをするために、感謝の気持ちと東洋大学硬式野球部の誇りを持って全力を尽くしたいと思っています。」
大学最後の試合。そして運命のプロ野球ドラフト会議へ
キャッチャーだけでなく、内野も外野もこなせる器用さを持ち、さらに50mを5秒9で走る走力も兼ね備える佐藤選手。攻・走・守の3拍子がそろったその野球センスは、プロ野球からも注目を集め、来たるドラフト会議の有力候補にあげられています。
「いろいろなポジションを守れたほうがチャンスはあるし、バッティングも足も活かせるので、それが自分の生きる道だと思っています。でも、やっぱりキャッチャーは特別な場所。ゲームを動かすことができるし、だからこそ技術だけではなく、責任感も必要です。人の2倍も3倍も練習しないといけないし、野球そのものを誰よりも深く考えないといけない。野球をやっていることを一番、実感できるポジションなので、キャッチャーとして勝負したいと思っています。」
9月13日、佐藤選手はプロ野球志望届を提出。今年のドラフト会議は、東都大学秋季リーグ戦のさなか、10月17日(木)に開催されます。感謝と誇りを持って挑む大学最後のリーグ戦とドラフト会議。佐藤選手にとって、どちらもかけがえのない日になりそうです。 (インタビューは、2019年9月2日に行いました)
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