INTERVIEWEE
桐生 正幸
KIRIU Masayuki
東洋大学 社会学部 社会心理学科 教授
博士(学術)。専門分野:犯罪心理学。日本犯罪心理学会理事、日本心理学会評議員。山形県科学捜査研究所主任研究官、関西国際大学教授などを経て、2014年4月より現職。著書に『カスハラの犯罪心理学』(インターナショナル新書)、『悪いヤツらは何を考えているのか ゼロからわかる犯罪心理学入門』(SBビジュアル新書)、『大学4年間の犯罪心理学が10時間でざっと学べる』(KADOKAWA)など。
狡猾な手口で犯罪に引き込む闇バイト。流行する背景には「コスパ・タイパ重視」の価値観が?

──まず初めに、闇バイトについて教えていただけますか。
闇バイトは、SNSの普及によって広まった違法行為の求人です。犯行グループはSNSで「高額バイト」などの文言を用いてひろく募集をかけ、応募者が見つかると秘匿性の高い別のメッセージアプリに誘導します。その後、身分証などの個人情報を要求してから、犯罪の具体的な指示などのやり取りを行うというのが一般的な流れです。気軽に応募できるように思える闇バイトですが、一度加担してしまうと抜け出すことは非常に困難。約束していたはずの報酬の支払いを先延ばしにされたり、怖くなって仕事を断ろうとしても「個人情報をインターネットに晒す」「自身や家族へ危害を加える」と脅迫されたりと、協力せざるを得ない状況に追い込まれてしまうのです。
闇バイトを用いて特殊詐欺を行う犯行グループはピラミッド型の組織構造をしており、メンバー間で徹底した役割分担を行っています。首謀者の下には指示役やリクルーターがいて、そのさらに下には実行役として電話をかける「かけ子」、振り込まれた現金を引き出す「出し子」、被害者から直接現金を受け取る「受け子」などが存在します。特徴的なのは、最下層にいる実行役が「加害者であると同時に被害者でもある」という点。主犯格は彼らを捨て駒として使い、警察に捕まるまで働かせたのちに切り捨てることで、自分たちは捕まりづらい仕組みを作り上げているのです。主犯格にとって、闇バイトを使った特殊詐欺は安全圏から行える「リスクは少なく、利益は大きい」犯罪になります。
──最近の若者が「コスパ」や「タイパ」を重視する風潮とも関係があるのでしょうか。
そうですね。コスパ・タイパ重視の価値観にうまくつけ込むのが、闇バイトの募集手口です。犯罪心理学においても、合理的選択理論という考え方があります。犯罪は、得られる利益とリスクやコストを天秤にかけた結果、利益の方が上回ると判断された場合に実行されるという理論です。利益に対してリスクが大きすぎることは割に合わないからやりたくない。できるだけリスクやコストを抑えて、たくさんのお金を得たい。こういった心理を利用して、「簡単な仕事内容で高額報酬を得られる」という謳い文句で誘い込むのでしょう。そして応募する側は、多少危険があると感じたとしても「得られる利益が大きいから」と実行に踏み切ってしまうのです。
危険な闇バイトに足を踏み入れてしまう人の心理とは

──闇バイトに加担してしまうのはどのような人でしょうか。
まず、「犯罪者だけを要因として犯罪事象が成立することはない」というのが犯罪心理学の前提です。犯行に至るまでには社会的要因、生物学的要因、目撃者の有無や被害者などさまざまな要素が絡み合っており、状況によっては私たち誰もが犯罪を起こす可能性があることを理解しなければなりません。例えば闇バイトに関して言えば、スマートフォンを使用するため、他人の目がない場所でいつでもやりとりが可能という点も人々が引き込まれやすい要因のひとつと言えます。複雑な全体像を俯瞰して捉える必要がありますから、安易に「犯罪者はモラルに欠けており根本的に私たちと違うのだ」などと考えると問題を見誤ってしまうため、注意が必要です。
そのような前提に立ったうえで、闇バイト募集のターゲットになりやすい人の特徴がいくつか考えられます。一つ目は、経済的に困窮していること。借金を抱えている人や生活が苦しい人は、高額を即金でもらえるという文言に飛びついてしまいがちです。二つ目は、社会的に孤立していること。周囲とのつながりが希薄なため、何かあった時に相談できるような関係の人がいません。また、家族や友人のことを考えて「大切な人を裏切っていいのだろうか」と犯罪を思いとどまることもないでしょう。最後に、想像力や共感性に欠けていること。特殊詐欺の結果、誰かが被害を被って困るということに考えが及ばない、もしくはそれを大きな問題として捉えられないのです。
──なぜ、闇バイトに引き込まれてしまう人が後を絶たないのでしょう。SNSの影響もあるのでしょうか。
現代日本の社会情勢的に先行きに希望を持ちづらく、若者の間になんとなく「まっとうに頑張ってもしょうがない」という諦めの風潮があることは、闇バイトに加担してしまう人が増加している要因のひとつかもしれません。さらに、SNSなどのアルゴリズムの影響も大きいと思われます。昨今は多くのプラットフォームに、一度興味を持って調べたものがその後も多く表示されるアルゴリズムが組み込まれています。つまり、一度闇バイトに興味を持ってしまった場合、闇バイト関連の情報が繰り返し表示され、いつの間にかそういったものが身近で当たり前のものになってしまうのです。
また、昔は何かを調べる際に図書館で本を探したように、さまざまな情報の中から自分の欲しいものを選ぶという過程がありました。今はインターネットや生成AIが発展したおかげで、調べたいことを打ち込めば一発で答えが返ってきます。いわば決め打ちのような状態になっており、情報を得る過程で「こっちの方が面白いぞ」とか、「実はあっちの方がいいんじゃないか」とかいう発見をしづらくなったのです。このように思考の道草が減ったことも情報リテラシーの低下を招き、偏った情報にのめりこんで闇バイトに引き込まれる層を作り出しているのでしょう。
闇バイトによる被害は減らせる? 専門家が考える有効な対策とは

──闇バイトへの加担を減らすためには、どのような方法が有効なのでしょうか。
いくつかのアプローチがありますが、現在行政や警察が行っている対策では、効果が不十分だと考えています。いくら「闇バイトに気を付けて」と呼び掛けていても、実際に闇バイトにひっかかるような人たちのもとには届かないか、他人事として捉えられてしまう可能性があるからです。
私たちがなるべく騙されないようにするためにできるのは、常にさまざまな角度から物事を見て、懐疑的に考える習慣をつけること。人はどうしても自分の好きな情報だけを取り入れたり、偏った情報を鵜吞みにしたりしがちですから、一度立ち止まってほかの情報を検討するトレーニングが重要だと思います。まさに大学で学ぶような考え方ですね。また、スマートフォンやSNSのアルゴリズムなどの危険性をきちんと認識して、安全に使いこなさなければならないという意識を持つことも必要です。
しかし一番重要なのは、個人に対策の責任を負わせるのではなく、社会全体で闇バイトに引き込まれる人を減らすような取り組みを行うことです。例えば、近所のコンビニが人の集まる場になっていて、ふらっと立ち寄って交流できるような仕組みがあれば、ある程度の社会的孤立を防げるでしょう。もしくは、闇バイトに巻き込まれそうだと感じたときにすぐ専門家にメッセージが送れて、適切なアドバイスがもらえる仕組みなどもよいかもしれません。いずれにせよ、捕まった人たちのプロファイリングを行ったり統計を取ったりと行政がデータを活用し、犯罪心理学の知見を用いて社会レベルの対策を講じられるとよいと思います。
