INTERVIEWEE
エン メイロン
Yan Meilun
東洋大学 社会学部社会文化システム学科 3年
社会学部社会文化システム学科の箕曲在弘准教授が担当する学習プログラム「社会文化体験演習 キャリア分野」の授業内で設立された学生団体「Smile F LAOS」で、ラオスコーヒーを通じた製品開発・販売&生産者支援プロジェクトに取り組む。
「Smile F LAOS」公式Webサイト
「Smile F LAOS」の魅力、それは学生の個性と経験が具現化すること
――はじめに、エンさんが「Smile F LAOS」に参加されたきっかけを教えてください。
実は、東洋大学への入学を決めたきっかけの一つが、私が今参加している「Smile F LAOS」に強く興味を持ったことでした。
進学先を検討していた際に、東洋大学の社会学部について知る機会がありました。フィールドワークやボランティア活動を通じて社会学を学ぶプログラムが多く用意されており、特に惹かれたのが「Smile F LAOS」のプロジェクトだったのです。授業の一環として活動している学生団体で、実際にコーヒー豆の販売やフェアトレードに関する調査など、社会に貢献する実践的な取り組みを行っていました。プロジェクトの存在を知ったとき、「ここで活動したい!学びたい!」と感じたことを覚えていますね。
商品を通して生産から消費までさまざまな立場から世界を知り、そして社会や課題について真剣に考え、ものの見方や考え方を身につけたいという想いがありました。現在は入学前からの念願が叶って「Smile F LAOS」の活動に励みながら、文化人類学の視点からフェアトレードについて学んでいます。
――コーヒーを通じて世界を知るという発想は素敵ですね。念願の「Smile F LAOS」ではどのような取り組みを行っていますか。
まず2年生の間に事前知識を身につけ、自分なりの課題意識を持った上でラオスへのスタディーツアーに参加します。現地で得た知識や経験を生かし、3年生では課題解決に向けたプロジェクトを各自考案。このプロジェクトを実施するために再びラオスに訪れるのです。学生が考えるプロジェクトのテーマは多様です。例えば、現地の小学生の算数の学力を向上させる絵本を作るなど、それぞれの学生の経験と個性が表れていることが面白いです。
また、年に数回行うフェアトレードコーヒーの販売は非常に有意義です。SDGsなどの世界が抱える課題を身近に感じながら、解決に向けて取り組むことは難しいものです。ですが、この販売活動は、キャンパスにいながら社会に貢献することができます。身近なところから世界まで、つながりを広げられる活動の一つです。
ラオスの生活とフェアトレードの実態に迫るフィールドワーク
ラオスでのスタディーツアーの様子――入学前から魅力を感じたというラオスでのスタディーツアーですが、実際に現地に訪問した際の経験について教えてください。
3つの村を訪問し、農家の家計調査を行いました。その調査項目は、家族構成にはじまり、年間の収支、所有している土地の広さ、飼育する家畜の数、コーヒーを加工する機械の所有数など多岐にわたります。その調査結果から現地における課題を明らかにしつつ、日本のフェアトレードの仕組みの有効性と貢献度の実態を知るきっかけを得るのです。
具体的に浮き彫りになったことが2つありました。1つは、日本のフェアトレード団体の「品質へのこだわりの高さ」。コーヒー豆は、より赤く熟している方が良質とされるなど、厳しい基準で選別されます。強く印象に残っているのは、生産者である農家の方に「なぜ品質にそれほどこだわるのか」と問われたことです。農家の方々は、コーヒー豆を売ることで生計を立てる一方、コーヒーを飲む機会はあまりないそうです。そのためコーヒー豆の品質が高いと、どのような美味しいコーヒーになるのかといったことには関心が薄いのです。ラオスの高品質なコーヒーの価値を高めていくことで、消費のループを継続させることができると農家の方々にも知っていただきたいですね。例えば、消費者の声を届け、高品質のコーヒーがいかに「生活を彩っているか」「幸福を生み出しているか」を知っていただき品質への関心を高めるなど、今後の課題を見出しました。
――日本国内では知られざる実態があるのですね。もう一つ明らかとなった事柄はどのような内容ですか。
2つ目は、「フェアトレードの仕組みの有効性」です。公正な取引を行うフェアトレードは現地の仲買人よりも買取価格が高いと思っていたのですが、実際にはそこに大きな差はありませんでした。それでは、なぜ生産者は販売価格が変わらないのに高いクオリティを求められる日本のフェアトレード団体との取引を行うのか。農家にもたらすメリットについて調査を進めると、「前払い制」が現地の農家を支援する仕組みとなっていることがわかりました。農家の多くは収穫期に豆を売ることで年間の収入を得ますが、次の年の収穫期を待たずしてお金は目減りし、学費や医療費などの出費がそれに覆い被さります。そして、借金を繰り返し「貧困のサイクル」に陥るというケースが後を絶ちません。そういった状況において、経済的に苦しい収穫期の前に報酬の50%を支払い、収穫後に残り半分を支払うという前払い制は大変有効です。現地の事情に寄り添った仕組みであることが判明したのです。
その他、より現地の生活について深く知るためにラオスの日常を経験したこともよく覚えています。例えば、コーヒー豆の収穫、加工工場や市場での価格交渉など。鮮烈に記憶に残る経験は一生ものです。
――現在はコロナ禍で海外への渡航ができない状況ですが、どのように活動していますか。
ラオスへの渡航が叶わない状況ですので、学ぶ対象や方法など根底の部分から考え直しつつ、さまざまなことにチャレンジをしています。
例えば、昨年現地を訪問した3年生から、まだ現地を訪れたことのない2年生へラオスでの経験談や感じられた課題について共有すること。来年度、今の2年生が3年生になったときにプロジェクトを実施する際のヒントを伝えるためです。そうした知識の伝達から考えたプロジェクトが、「ゴミを農業に活用できるように加工するコンポストの製作」や「布製の絵本の製作」などです。2つ目の絵本の製作に考えが至ったのは、現地の学校には保健室のようなものがなく、怪我をした子どもたちが対処する術を知り得ないことに課題を感じたからです。ラオスの子どもたちが、応急処置や殺菌の大切さを理解できる絵本を作る計画をしています。また、日本国内でフェアトレードの仕組みをより広く知っていただくために、「コーヒー農家の生活疑似体験ゲーム」を作るというプロジェクトも進行中です。
また、コロナ禍でもできる学びとして、ラオスの農家の方々とオンラインでつなぎ交流を図るバーチャルスタディーツアーも行いました。現時点で、感染拡大の影響によってコーヒーの価格が下がり、経済的なダメージを受けているといった話は聞いてはいませんが、状況が長引くことによって悪影響が生じることも危惧しています。
オンライン形式で実施したバーチャルスタディーツアーの様子
品質を見極めるエシカルな視点の重要性
販売会の様子――キャンパス内で実施されているフェアトレードコーヒーの販売会についても教えてください。フェアトレードコーヒーを手にする際に、どのような視点を持ってほしいと考えますか。
フェアトレード商品というと「社会貢献につながる」や「一般的な商品より価格が高い」といったイメージを持たれる方が多いと思います。しかし、フェアトレード商品の販売に関わる団体の一員としては、「途上国の人々を助けるため」という視点以上に、「クオリティの高いものを食べたい・飲みたい」という考えのもとで、フェアトレード商品を選んでいただきたいと考えています。実際に私たちが東洋大学内でフェアトレードコーヒーを販売する際も、高い品質について明確に、わかりやすく伝えることを意識しています。
販売スペースに来てくださったお客様には、まずは試飲用のコーヒーをお渡しします。その後、豆の選定基準や焙煎方法といったコーヒーの製造過程やフェアトレード商品として認定されるまでの厳しい審査内容について説明するのです。まず味を通して「この商品を買いたい」と素直に感じてもらい、その上でフェアトレードの仕組みを知っていただく。そして、生産している農家が暮らす環境や国に思いを馳せ、それらを総合して良い商品かどうかを判断して購入していただきたいと思っています。
――継続的な購入につなげるのであれば、クオリティで選ばれる商品でなければなりませんね。
「フェアトレードだから」「農家が大変だから」という理由だと消費者側にとってフェアな取り引きではないですし、そのとき限りの購入になってしまうかもしれません。「本当に美味しいから」という理由で選ばれることで、「持続可能な取引のサイクル」につながっていくはずです。そして、生産者が美味しくて品質の良いものを作り続けていくためには、生産者の労働環境や生活水準が保障され、自然環境にもやさしい配慮がなされることが必要です。この視点は、現地の農家の方々と関わったからこそ持てたものだと思います。
ラオスやフェアトレード自体を知らない人々にも、こうした視点を持ってもらえるような、そしてフェアトレード商品が本来持つ食品としての魅力が伝わる販売会を目指しています。
――品質に厳しい基準を設けているフェアトレードコーヒーだからこそ、購入するときもその品質を判断基準にするべきということですね。「Smile F LAOS」が開催するフェアトレードコーヒーの販売会、すぐにでも訪れてみたくなりました。フェアトレード商品を手に取る場として、地元のスーパーやデパートなどが考えられますが、思い返すとあまり商品棚で目にしたことがないような気がします。
はい。実は、日本のスーパーやデパートでは、それほどフェアトレード商品の取り扱いは多くありません。フェアトレードの認証マークがついている商品をあまり見かけることがない理由の一つには、商品を取り扱うための手続きや、認証マークの承認を申請し、取得するまでの過程が非常に複雑であり、手間がかかるからだと聞いたことがあります。取り扱いたい製造者や、手に取りたい消費者が存在する一方、認証までの制度に改善の余地があることも、フェアトレード商品の課題だと感じています。
しかし、いわゆる「公式」の認証マークのついていない商品でも、生産者との公正な取引を行って販売している商品も多数存在します。消費者それぞれが商品の背景について興味を持ったり調べたりすることでより良いもの、そしてフェアな取引が行われている商品が選ばれるようになって欲しいと思っています。私たちの活動が、ラオスの農家の人々の生活を救うだけでなく、消費者の皆さんがフェアトレード商品を手に取るという「意識の変化」につながり、SDGs達成への貢献、社会貢献につながれば嬉しいです。