INDEX

  1. 消費増税の背景とは?
  2. 軽減税率の制度を解説!対象品目を確認しよう
  3. 消費増税によるメリット・デメリット
  4. 消費増税はいつまで続く?日本の未来を考える。

INTERVIEWEE

金子 友裕

KANEKO Tomohiro

東洋大学 経営学部 会計ファイナンス学科 教授
専門は、租税法、会計学。博士(経営学)。会計の利益、法人税の所得の算出方法について研究を行う。著書に、『法人税法人入門講義』(中央経済社)、『新版 税務会計学事典』(創成社)、『簿記会計仕訳ハンドブック』(創成社)などがある。

消費増税の背景とは?


画像:東洋大学経営学部会計ファイナンス学科 金子友裕教授

――金子先生のご専門を教えてください。
「専門は租税法、会計学で、税務会計といわれる分野です。基本的には会計の利益、法人税の所得をどうやって出すのか、そしてそれがどういった性質であるかを主に研究しています。」

――今回は2019年10月1日から施行された消費増税・軽減税率について、お話を聞かせてください。これまで消費税は、3回の増税が施行されてきました。
「日本では、1989年にはじめて3%の消費税が導入され、その後1997年に5%、2014年には8%に引き上げ。そして当初、2015年には10%に増税されるはずでしたが、二度の延期の末に2019年にまでずれ込むことになりました。」

【消費税増税 年表】
1989年4月 消費税3%を導入
1997年4月 消費税を5%に引き上げ
2014年4月 消費税を8%に引き上げ
2019年10月 消費税を10%に引き上げ

  
――8%の消費税引き上げから5年も先送りとなったのには、どのような理由があったのでしょうか?
「2%の増税なので、上げられなかったわけではないと思います。ですが、景気の問題などを加味したうえで、上げることによるデメリットが大きいと考えられたのでしょう。我が国の財政状況を考えれば消費税率は10%でも足りません。しかし、やはり消費税を上げれば景気の減退効果は免れられないので、今はなるべく大きな打撃を与えないよう徐々に高くしている段階です。日本の財政状況からみると、これからも上げ続けなければ厳しいのではないかと思います。」

――そもそも消費税はどのような役割を担っているのでしょうか?
「消費税は、シンプルにいうと国のお金を補填するために存在しています。

これから先は国際的にも競争が激しくなり、所得税や法人税の増税を行えば、個人や企業が拠点を海外に移すことを促しかねません。日本の経済にとって、こうした個人や企業の海外流出は打撃となるため、所得税と法人税の税率はなかなか上げられない。相続税などの資産課税は税収に占める割合が大きくないので、たとえ税率を倍にしたとしてもあまり大きな変化はないでしょう。そう考えたとき、ある種、消費税だけが国の増収への大きな財源となりうるのです。」
    

軽減税率の制度を解説!対象品目を確認しよう


■軽減税率の対象品目

――今回の消費増税では軽減税率が適用されましたが、対象となる品目がわかりにくかったり、消費者にとって判別が容易ではないと感じました。
「そうですね。対象品目を大まかに分けると、飲食料品と新聞が軽減税率(8%)の対象となります。しかし、飲食料品であっても酒類・外食の場合、新聞は週に2回以上発行される場合は軽減税率の対象にはなりません。


<外食の定義>

外食とは、『飲食店業など食事の提供を行う事業者が、テーブル・椅子などの設備がある場所で飲食料品を飲食させる役務の提供をすること』とされています。

<例>
軽減税率対象(8%)……テイクアウト、出前・宅配、持ち帰り販売、お土産、有料老人ホームの飲食料品提供、学校給食など
軽減税率対象外(10%)……店内飲食、イートイン、フードコート、ケータリング、出張料理など


<一体資産の取り扱いについて>

一体資産とは、食品と食品以外の資産が一体となっている資産で、例えば「ティーカップ(食品以外)」と「紅茶(食品)」のギフトボックス、おもちゃ付きのお菓子などが一体資産に該当します。この場合、税抜き価額が1万円以下で、食品の価額の占める割合が2/3以上であれば、全体が軽減税率の対象となります。
○一体資産の販売にかかる原価のうち食品の原価が占める割合で判定
○一体資産を仕入れたときの税率で判定

――日用品も軽減税率の対象なのかどうかが大きな関心事項となりましたが、上記のような一部の例外を除いて、基本的には『食料品・新聞』のみだと考えておけばよさそうですね。
    

消費増税によるメリット・デメリット


■【メリット】2019年10月からスタートした新しい制度とは?

「今回、消費増税と同じタイミングで実施された社会保障制度は、消費税の増税が直接的に影響しているわけではありません。しかしながら、増税による駆け込み需要の影響を軽減したり、増税直後の景気減退を緩和したりするための動きが起きていることを考えれば、消費税の増税で良い影響があったととれるでしょう。

年収を増やすことができなければ、増税はただ支出が増え、生活が苦しくなるだけにすぎません。ですから新しく導入された社会保障制度の内容にはしっかりと目を通して、該当するものについては手続きや申請をきちんと行ってほしいと思います。」

  
<消費増税による税収の使い道>

■待機児童の解消……待機児童問題を解消し、女性就業率80%に対応できる「子育て安心プラン」に基づいて、令和2年度末までに約32万人分の保育の受け皿を新たに整備。
■幼児教育・保育の無償化……幼稚園・保育所・認定こども園などの保育施設利用料について、3〜5歳児クラスが無料になります。※住民税非課税世帯は0〜2歳児クラスも対象
■高等教育の無償化……住民税非課税世帯とそれに準ずる世帯の学生を対象に大学・短大・高等専門学校(4・5年生)、専門学校での学びへの支援を拡充します。
■介護職員の処遇改善……介護福祉士の資格をもつリーダー級の職員の方を対象に月額最大8万円の処遇改善を実施します。
■所得の低い高齢者の介護保険料軽減……住民税非課税世帯を対象に65歳以上の方の介護保険料を軽減します。
■年金生活者支援給付金の支給……所得が一定以下の年金受給者へ給付金を支給します。
引用:知ってほしい!消費税のこと。暮らしのこと。/政府広報

 
   

■【デメリット】消費増税・軽減税率適用で、懸念される事業者への負担

――反対に消費増税によって、私たちにデメリットはあったのでしょうか?
「運用の観点からみれば、消費増税のときの悪い影響はそこまでなかったのではないでしょうか。前回の消費税(5%→8%)引き上げの際には、企業による消費税相当の減額などを禁止していました。そのこともあり、増税前の駆け込みや景気の減退が顕著に現れてしまったのです。そうした背景から、今回はとくに減額を禁止することなく、さらにキャッシュレスに関していえば国が税金相当を負担することになっています。それだけ前回の景気減退が与えた影響は大きかったのでしょう。」

――私たちの日常生活に与える影響というのは、そこまで大きなものではなかったということですね。
「そうだと思います。ただ、これから課税庁がどこまで厳しい運用をするかにもよりますが、区分の記録をレジに残しておかなければならないお店などの事業者は手続きが複雑になると考えられます。おそらくテイクアウトを厳密に分けるのは難しいし、大変だと思います。」

――事業者にとって、今回の消費税増税と軽減税率は具体的にどのような点が大きな変化だったのでしょうか?
「売り方はもちろん、手が掛かるということはそれだけ人件費もかさんでしまうでしょうし、帳簿もこれまでとは形式が変わります。それが原因で利益を圧迫してしまったり、店を閉めてしまったりするような事態が起こらないことを願うばかりです。

その反面、今回の消費増税を機にはじまったキャッシュレスやプレミアム付商品券などで売り上げや流通が増やせるのであれば、これをビジネスチャンスとして利用することもできます。そうした景気対策のための施策をうまく活用していくことが大切で、それができないと悪い影響を相殺できず、見えないところで負担が増えるだけになってしまうと思います。」


<消費税引き上げに伴う政府の対応>

■軽減税率制度……日々の生活における負担を減らすために対象品目に係る税率を8%に据え置きます。
■プレミアム付商品券事業……住民税非課税者や3歳未満の子育て世帯を対象に2.5万円分の商品券を2万円で購入できるプレミアム付商品券を発行・販売します。
■自動車購入の支援……自家用自動車を購入される方に、自動車税の税率引き下げ・環境性能割の臨時的軽減。
■住宅の購入等の支援……消費税率10%が適用される住宅の購入やリフォームなどをされる方に、住宅ローン減税の拡充・すまい給付金の拡充などさまざまな支援を行います。
■キャッシュレス決済に対するポイント還元制度……対象店舗でクレジットカード・デビットカード・電子マネー・スマートフォンなどを使った代金の支払いでポイント還元が受けられます。
■マイナンバーカードを活用した消費活性化策……民間キャッシュレス決済手段に、一定の前払いなどをされた方に「マイナポイント」を付与します。
■商店街の活性化……商店街の活性化を目的に、ゲストハウスの整備やWi-Fi設備の整備、多言語化対応、文化体験イベントなどの取組を進めます。
■防災・減災・国土強靱化……令和2年度までの3年間で、防災のための重要インフラ、国民経済・生活を支える重要インフラなどの機能維持への対策を集中的に実施します。
引用:知ってほしい!消費税のこと。暮らしのこと。/政府広報


――こうした制度を利用するほかに、事態を悪化させないために事業者側がすべきことはありますか?
まずは制度に馴染むことが必要だと思います。売り方やレジの操作などを含めて会社で方針を固めたり、スムーズな運用ができるように従業員の動作をマニュアル化したり……。消費税がかかってしまうというのは変えられないので、そのなかでどのようにして機会損失を防ぎ、事務負担を軽くしていくかが問われるでしょう。それが企業努力になってしまうのが難しいところですね。」

――消費増税・軽減税率適用前もメディアで多くの個店経営のお店が取り上げられていました。実際に導入されてからは、お店の対応は追いついているのでしょうか?
「“何とか間に合わせている”という状況ではないでしょうか。ただ、厳密にいえば8%と10%が混ざってしまっていることもあるかもしれません。それを申告するときにどのような問題が起こるかはまだわかりません。今後、運用が進んでいくなかで問題は多く表にあらわれてくると思います。

しかし、複雑な制度を導入するうえで、慣れるための期間ではあまり厳しい運用をするべきではないと考えます。数年かけて運用してみて、安定した頃にきちんと正しい運用が徹底されるように指導が入るようになるのではないかと予想しています。」
    

消費増税はいつまで続く?日本の未来を考える。



――消費税は、今後どれくらいまで上がるのでしょうか?
「国としては、上げられる限りは上げていかなければならない状況なのだと思います。日本はだいたい1千兆円の借金があるので、それを返していくとなれば、消費税率は今の倍では済まないでしょう。借金がこれだけあるなかで、やはりいつまでも安穏としているわけにはいきません。これでは経済の破綻がいつか起きてしまいます。」

――そう考えると、やはり消費税の増税は必要だったということですよね。ただ、なかには
「消費税は一律のほうがよかったのではないか」という声もあります。

「一律のほうが、税の構造としてはシンプルでいいですよね。軽減税率を導入している海外の国でも、効率性やかかるコストの問題から軽減税率の廃止を考えている国も多いです。しかし、生活に必要なものに対する税金が上がってしまうと、年金暮らしの方や働きたくても働けない方にとっては、かかってしまった金額分だけ生活が苦しくなってしまいます。その分ほかの生活保障制度などで守ることができればいいのですが、現状ではまだ不安に思う人のほうが多いでしょう。」

――先生ご自身は、どのように考えていらっしゃいますか?
「個人的な意見となりますが、一律のほうが効率はいいので、経済学者の多くが複数税率に反対しています。しかし、人々の生活を守ることが税制であり、正しい会計の姿だと思うので、今の日本の状況を考えれば、軽減税率は必要な制度だったのではないでしょうか。

ただ、今後消費税を引き上げていくうえで軽減税率を適用し続けるならば、衣食住といわれる生活必需品については軽減税率の対象にしてもよいのではないかと思います。しかし、衣食住と一言でいっても、いわゆる“防寒着”と“装飾のついた洋服”とでは区別が難しいなど、考えはじめると難しいところもあります。ですから、そのなかでなるべくシンプルな制度にできるように考えなければなりませんね。

消費増税は、日本の財政を考えれば必要な制度ではあります。しかし、それによって生活の維持が難しくならないか。そして、もしも生活の維持が難しくなった場合でも制度によって守られるような対策が取られているかどうかは、生活者である私たち自身が確認するべきです。そのため、消費税について興味を持ち、継続的に考えていくことが大切だと思います。」
    
 

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