INDEX

  1. 【要因】子どもの事故はなぜ起こる?予期せず起こる“不慮の事故”とは
  2. 子どもの事故の現状は?年齢別にみる交通事故の特徴
  3. 【対策】大切な命を守るために親ができることとは?

INTERVIEWEE

内山 有子

UCHIYAMA Yuko

東洋大学 ライフデザイン学部 健康スポーツ学科 准教授
専門分野は養護教育、学校保健、小児保健。大学院終了後、アメリカCDC内にある国立事故防止センターにて事故予防について研究を行う。帰国後、さいたま市の高校で2年間養護教諭を務め、現在、大学にて養護教諭、保育士、幼稚園教諭の養成を行っている。著書に、『学校保健の世界』(杏林書院)、『子どものからだと心 白書』(ブックハウスHD)、『養護教諭-知っておきたい保健と教育のキーワード-』(第一法規出版)などがある。
   

【要因】子どもの事故はなぜ起こる?予期せず起こる“不慮の事故”とは

画像:東洋大学ライフデザイン学部健康スポーツ学科 内山有子准教授

――先生のご専門を教えてください。
「専門分野は『学校保健』と『小児保健』です。もともと養護教諭として勤務していたことから、今は養護教諭の養成を中心に、保育士や幼稚園教諭の養成などにも携わっています。上記の専門分野の中で特に『子どもの事故防止』に関する研究を進めているところです。」

――先生が研究している「事故」のなかには、どのようなものがあるのでしょうか?
「一般的に事故は、不注意や予期せぬ事態から起きる『不慮の事故』と誰かが自らの意思で起こす『故意の事故』の2種類に分類されています。私が専門としているのは前者で、交通事故・窒息・溺死・転落などがこれに該当します。『不慮の事故』は、実は50年ほど前からずっと子ども(15歳未満)の死因の上位を占めていて、近年では毎年約300人もの子どもたちが不慮の事故で命を落としているのです。」

――事故に遭ってしまった子どもを調べてみたら、男女に差があるという話を聞いたことがあります。
「統計でみると、事故で亡くなっている子どもの男女比に差はありますが、それは文化的背景の“遊び方の違い”が関係していると思います。かつて、男の子は外で野球やサッカーなどして遊んでいましたし、女の子はどちらかといえばお部屋のなかでおままごとなどをするのが一般的でした。そのため、男の子のほうが交通事故などの不慮の事故に遭う危険性が高くなっていました。しかし、現在はさまざまな環境の変化もあって、男の子も家のなかでゲームをして遊ぶなど室内遊びが増えていることもあり、現在は男女で大きな差はなくなってきています。」

――では、そうした事故が起きるのには何か要因があるのでしょうか?
「私が事故防止に関する研究を始めたきっかけは、大学時代の養護実習でした。同じ子どもが毎日のように怪我をして何回も保健室にくるので『どうして同じ子ばかりが怪我をするんだろう?』と疑問を持ちました。また、子どもは違っても『同じ場所で同じような事故が繰り返し起きていた』ことも疑問でした。当時の若かった私はそれがなぜなのかわかりませんでしたが、研究を重ねるなかで“子どもの注意力が欠如している場合”と“環境設定に問題がある場合”に事故が起きやすくなることが見えてきました。

不慮の事故の発生には人や場所など、さまざまな要因が潜んでいることがほとんどですが、これらの事故は事前の対策で防げるものもたくさんあります。子どもたちの命を守るために、まず大人が事故に対する考え方を改めていく必要があると考えています。」
   

子どもの事故の現状は?年齢別にみる交通事故の特徴


出典:厚生労働省人口動態統計『不慮の事故の死因順位』〈平成29年〉

――いろいろな要因がある『不慮の事故』ですが、今回は交通事故をテーマにお話を伺いたいと思います。
「はい。まず、“事故”と言われて最初に思い浮かべるものをみなさんに伺うと、交通事故が一番にあげられます。上記の表を見ていただいてもわかるように、不慮の事故のなかでも交通事故の割合は比較的多いのです。とくに学齢期である5-9歳の子どもたちは、行動範囲が広がると同時に親との行動が減少する時期でもあり、この時期の不慮の事故件数の半数が交通事故であるという現状があります。

また、ひとえに『交通事故』といっても、その原因にはいくつかの種類があります。たとえば、被害者が乗用車に乗っている場合、自転車に乗っている場合、歩行者の場合などです。年齢別にその内容をみていくと、成長過程における交通事故の動向がわかります。」


出典:厚生労働省「平成21年度『不慮の事故死亡統計』の概況」より



【年齢別の交通事故の特徴】

・『0歳』の交通事故の場合
0歳児の大多数を占めるのが、保護者の運転する車に乗せられているときに事故に遭遇するケースです。0歳児はまだ自分で自由に動き回ることはできないので、親が運転する乗用車・自転車による事故が大部分を占めます。

・『1-4歳』の交通事故の場合
自分で歩けるようになる1-4歳では、歩行者として事故に遭うケースが半数を占めます。活動が活発になるためボールを追って道に飛び出してしまうなど“ちょっと目を離した隙に”という事故が増える傾向にあります。この頃は、乗用車・自転車・歩行者などさまざまなケースで交通事故が起こるようになりますが、自転車での事故はまだ親の運転によるものがほとんどです。

・『5-9歳』の交通事故の場合
小学校入学をきっかけに子どもの行動範囲が広がり、もっとも交通事故が多くなる時期で、5-9歳で不慮の事故で亡くなる子どものうちの約半数が交通事故によるものです。また、年齢が上がるにつれて自分で運転する自転車による交通事故が増えてくるようになります。

・『10-14歳』の交通事故の場合
年齢が上がるにつれて注意力が増し、交通事故は減少する傾向にあります。しかし、活動範囲はさらに広がり、自動車・自転車・歩行者などさまざまなケースで事故が起きるようになります。

【対策】大切な命を守るために親ができることとは?



――交通事故に対する効果的な対策法を教えてください。
「まず、6歳未満の子どもが乗用車を使ってお出かけする際には、ベビーシートやチャイルドシートの着用を必ず行ってください。警視庁の調査では、チャイルドシートを着用している子と着用していなかった子では、交通事故に遭った場合の死亡率が16倍も違うというデータがあります。日本では6歳未満の子どものチャイルドシートの着用が義務づけられていますが、5歳児の着用率がとても低い。これは、子どもの自我が育ってくる頃で、つけるのを嫌がったり、自分で外してしまうことが多いからです。

チャイルドシートは、交通事故の際に身体が車外へ投げ出されるのを防ぐだけでなく、車内で子どもが動き回り、運転の妨げになるのを防止することにも役立ちます。運転者は運転中に子どもが車内を動き回ったり、ちょっかいを出されては運転に集中することができず危険です。ですから、『チャイルドシートを着用しなければ運転者も子どもも命が危ない』という意識を親がどれだけ持てるかで、乗用車による交通事故の死亡率は抑えることができるはずです。」

――親の目が届かないところで子どもが交通事故に遭わないようにするために、できることはありますか?
「アメリカでは、サマータイムが終わった日(11月の第一日曜日)が最も交通事故の多くなる日といわれています。それは、時計が1時間ずれることで外の明るさが変わるからだといわれています。夕暮れどきに事故が多いのは日本でも同じです。薄暗くなってきて、ヘッドライトをつける車とそうでない車が混在する時間帯には、車から子どもが見えづらいこともあります。ですから親の対応としては、夕暮れどきや暗くなってからの外出時にはなるべく明るい色の服を着させる、自転車には反射板をつける、鞄や小物などに蛍光色の入ったものを持たせることも効果的です。

それから、こうした『不慮の事故』が起きるのには、危険なことへの理解や経験が足りていないことが背景としてあります。たとえば、家で『危ないから』と包丁などの刃物を使わせていなかったとすると、学校の家庭科で初めて包丁を使ったときに怪我をしてしまうといった可能性は高まります。家庭で先回りをして危険を排除し過ぎている子ほど、ひとりで外に出たときに怪我をしやすい傾向があります。」

――子どもを思うが故の行動であっても、ある程度までは“経験させる”ことが必要なのですね。
「そうですね。子どもは成功も失敗も経験から学ぶので、普段から小さな怪我を経験することで危険を察知する能力が育っていきます。ですから、なんでもかんでも危ないからと取り上げたり禁止したりせずに、時には見守りつつ、公園などで身体を使った遊びをたくさんさせてあげることはとても大切です。

子どもと出かけたときには、交通ルールや車の往来が多い道路などを一緒に確認して、『遠回りをして横断歩道を渡って帰ろう』『信号が点滅したら次の青信号まで待とう』など保護者の方が日常のなかで交通ルールを教える時間をつくることを心がけるとよいでしょう。

また、親が子どもの模範となることは、子どもの注意力を養ううえでとても重要です。朝はとくに忙しい時間帯だとは思いますが、子どもを自転車に乗せながら赤信号を無視して渡ってしまうと、子どもも同じように危機管理能力が薄れてしまいます。親の見ていないところで交通ルールを守れる子になるかどうかは、親の行動が深く関係しているのです。」

――まずは親である自分の行動を正すことが、子どもの事故を防止することにもつながるのですね。
「そうですね。現在では少子高齢化が問題とされ、政府による子どもを増やすためのさまざまな対策がとられています。しかし、子どもを増やすことと同じ位、せっかく生まれてくれた大切な命を亡くさないために、まず大人が事故のリスクと安全対策を心得ておくことが重要です。そのことを子どもたちにもしっかりと背中で伝えていくことで、今ある大切な命と、また新たに生まれてくる命の両方を守っていくことができるようになると考えています。」 
   

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