INDEX

  1. 食品の特定の成分を利用して、がんの予防を目指す
  2. 薬とサプリメントの違いとは?用途や安全性から考えよう
  3. サプリメントの気になるあれこれ―副作用や安全性は大丈夫?がんの予防も可能?

INTERVIEWEE

矢野 友啓

YANO Tomohiro

東洋大学 健康スポーツ科学部栄養科学科健康スポーツ科学研究科栄養科学専攻ニュートリションサイエンス分野 教授
薬学博士。専門分野:医療系薬学、病態医科学、生活科学。国立健康・栄養研究所応用食品部主任研究官、WHO・国際癌研究機構客員研究員、独立行政法人国立健康・栄養研究所食品保健機能プロジェクト プロジェクトリーダーなどを経て、2010年より東洋大学で勤務。2023年4月より現職。共著書に『ビタミンE研究の進歩XVII』(ビタミンE研究会)、『大豆のすべて』(サイエンスフォーラム)など。

食品の特定の成分を利用して、がんの予防を目指す



――まず、先生のご研究内容について教えてください。

主に、食品の機能性成分を利用した生活習慣病の予防・治療について研究しています。もともと薬学分野の研究をしていたのですが、病気になってから薬で治療するのではなく、病気になる前の“未病”と呼ばれる状態にアプローチすることで疾患を予防できないかと考えました。そこで活躍するのが、「薬」ではなく「食品」です。一部の食品の中には、機能性成分と呼ばれる生体調整機能に関与する成分が含まれており、それらを高濃度で摂取することで薬理学的な効果が期待できるのです。私は特にがんの予防につながる機能性成分の開発を目指して研究を進めています。さらに、食品の機能性成分と薬を組み合わせることで、薬の毒性を弱めつつ効果を高めるなど、治療のサポート役としての食品由来成分の活用方法も探っています。

――特に注目している食品や成分はありますか。

深く研究している成分の一つがビタミンEです。ビタミンEには抗酸化作用があり、肥満改善やアンチエイジングに効果があると言われています。がんや血管の劣化、骨粗しょう症などの予防につながる機能を明らかにするべく、長年研究を続けています。その他に注目している食品が、大豆です。大豆は納豆やみそをはじめ日本人には馴染み深い食材ですが、実は多くの優れた成分を含んでいます。例えば、「ボーマン・バークプロテアーゼインヒビター(BBI)」というタンパク質には、がんの予防効果があることが分かっています。BBIが作用するメカニズムについて調べたところ、特に皮膚がんなどの悪性度の高いがんに対して効果があることが分かりました。BBIによってがんの抑制遺伝子が機能し、増殖速度を抑えられるためです。今後は臨床試験を含め実用化に向けて取り組んでいきたいと考えています。
 

薬とサプリメントの違いとは?用途や安全性から考えよう



――薬とサプリメントの違いを教えてください。

薬機法という法律に基づき、配合されている成分の有効性や安全性、品質等が認められたものを「医薬品」と呼びます。病気の治療を目的としており、病気に対する効果を表示することが可能です。一方、薬機法に該当しない健康食品全般を「サプリメント」と呼びます。健康の維持や病気の予防、美容など使用用途はさまざまで、「食品」と同じ扱いとなるため、例えば「糖尿病のリスクを下げる」など特定の病気に対する効果の表示はできません。両者の安全性の基準も異なります。薬は基本的に対症療法的な短期間の摂取が想定されていますので、長期での安全性までは考慮されていない場合があります。一方サプリメントは長期間摂取をして“未病”といわれる人の発症リスクを下げることが目的ですから、長く摂取を続けても身体に問題が出ないように基準が設定されています。

――サプリメントはどのような分類に分かれているのですか。

現在国(管轄は消費者庁)が運営管理するサプリメント制度(保健機能食品制度)では、「特定保健用食品」・「栄養機能食品」・「機能性表示食品」の3種類の食品に分類されています。通称「トクホ」と呼ばれる「特定保健用食品」は最も歴史が古く、1990年ごろから制度設計がなされ、1993年にはじめて2品目が認定されました。これにより、身体の生理学的機能などに影響を与える成分を含み、その効果や安全性が科学的に証明されている食品に対して、特定の効果が期待できる旨の表示が可能になりました。例えば、ヨーグルトの「おなかの調子を整える」、お茶の「体脂肪を減らすのを助ける」という表示を見たことがある人も多いでしょう。ただし、国の認可を得るためには厳しい審査をクリアする必要があり、多くの労力や時間、費用がかかります。

「栄養機能食品」は、不足する必須栄養素の補給を目的として2001年に誕生しました。栄養バランスがとれた理想的な食事が毎日できていれば生活習慣病になるリスクは極めて低くなりますが、現実的にはなかなか難しいものです。多くの人は必須栄養素のうち糖質や脂質を摂りすぎる一方で、ビタミンやミネラル、食物繊維が不足しています。それらをサプリメントで補うことで、健康な身体を目指せます。

「機能性表示食品」は、機能性に関する科学的根拠や安全性などを消費者庁に届け出ることで、食品に機能性を表示することができる制度です。特定保健用食品との違いは、国の審査がないところ。問題が起こった場合には、企業の責任となります。この制度ができたことで、サプリメントの認知が広がりましたが、科学的根拠が薄い商品や誇大表現に当たりかねない表示を行う商品も散見されるようになったと感じています。企業の信用度やエビデンスとなる論文、パッケージの表示などから、消費者自身が判断して商品を選ぶ必要があります。
 

サプリメントの気になるあれこれ―副作用や安全性は大丈夫?がんの予防も可能?



――サプリメントが身体に悪影響を及ぼすことはないのでしょうか。

最近あるサプリメントで健康被害を招く事故があり、安全性に不安を感じている方もいらっしゃると思います。しかし、この事故は現時点で製造過程での異物混入が原因と考えられるため、サプリメントの成分自体に危険性があったというわけではありません。しっかりと製造過程や品質管理を行っている商品であれば、安心して摂取していただけます。

専門家として皆さんに注意していただきたいのは、摂取量を必ず守ること。多く飲んだからといってよく効くわけではありません。特に脂溶性の成分(ビタミンAやビタミンDなど)は、過剰摂取すると体内に蓄積し、身体に副作用などの悪影響を及ぼします。摂取量を守ったうえで、もし不安があればインターネットなどで調べるか専門の公的機関や相談室に確認すると良いでしょう。

――サプリメントはどのように選べば良いですか。

どういった目的で摂取するかによって、選ぶべきサプリメントは異なります。美白であればビタミンC、疲労感を改善したい時はビタミンBなど、明確な目的がある場合は特定の成分に特化したサプリメントの摂取をおすすめします。一方、健康維持を目的に、不足しがちな必須栄養素を補いたいという人には、さまざまな成分が含まれたマルチビタミンやマルチミネラルがおすすめです。もし、サプリメントと薬を併用する場合には、医師や薬剤師に相談をしてください。複数のサプリメントを併用する場合には、パッケージを確認して摂取量を調整し、過剰摂取にならないよう注意していただけたらと思います。

――先生のご専門であるがんに、サプリメントは有効なのでしょうか。

がんは老人性の病気なので、加齢に伴って増加する傾向にあります。しかし、不足している栄養素をサプリメントで補うことで、がんの発症リスクは減らせると考えています。例えば、たばこを吸うと肺がんや咽頭がんになりやすくなりますね。これはたばこの発がん物質が原因であることはもちろんですが、酸化物質が取り込まれビタミンCが極端に減ることも要因の一つです。サプリメントで不足するビタミンCを補うことで、少なからずがん発症のリスクコントロールが可能と言えます。つまり、不足する栄養素を普段からこつこつサプリメントで補うことが、老後を健康に過ごす秘訣なのです。
 

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