INDEX

  1. 適応障害のキホン:病気の要因や、うつ病との違いとは?
  2. 適応障害かもしれないと感じたら?通院などの正しい対処を知る
  3. 身近な人が適応障害になったら…周囲の人ができるサポート

INTERVIEWEE

角田 京子

SUMIDA Kyoko

東洋大学 社会学部 社会心理学科 准教授
博士(人間・環境学)。専門分野:精神医学、臨床心理学。京都大学医学部卒業、京都大学大学院人間・環境学研究科にて学位取得。精神科医として病院での勤務を経て、2018年より現職。共著書に『公認心理士 国家試験対策全科』(金芳堂)。

適応障害のキホン:病気の要因や、うつ病との違いとは?



――適応障害とはどんな病気なのでしょうか。

適応障害とは、環境のストレスが要因となって、心身に不具合が起きる疾患です。主な症状として、気分の落ち込みや意欲の低下、不眠、食欲不振などが挙げられます。精神疾患は根本原因が不明なことが多いため、現代では一般的には“症状”をもとに診断をします。一方、適応障害は環境のストレスという“原因”を重視して診断する疾患です。現代では珍しい診断カテゴリーであり、20世紀後半から21世紀にかけて認知が広がりました。
精神疾患ではうつ病がよく知られていますが、適応障害とうつ病は共通点や連続性があるものの、臨床上は異なる病気です。適応障害の場合、ストレスの多い環境では具合が悪く、ストレスから解放されると体調は回復します。例えば、職場環境にストレスを感じている人も、仕事が休みの日には友人と気晴らしに出かけられます。また、自分が環境に適応できていないことを自覚しており、環境に対する怒りや恨みを言葉で表せます。一方、うつ病の場合は、休日などのストレスのない状態でも気分の落ち込みや意欲低下などの症状が現れます。怒りの気持ちを持つこと自体にも罪悪感があって、なかなか怒りを語れないという傾向もあります。重度の場合は幻覚や妄想などの精神病症状が出ることもあります。ところで、うつ病の方のお話をよく聴いてみると、うつ病と診断される1~2年前は適応障害だったという人も多いのです。つまり、適応障害が長引き重症化すると、うつ病になる可能性があると言えます。

――最近適応障害と診断される人が増えていると聞きました。

環境のストレスが原因で具合が悪くなる人がいるのは昔から知られていました。「適応障害」という診断名が一般化したことで、これまでうつ病や性格の問題とされていた人々の一部も適応障害として診断されるようになり、患者数が増えているのではないかと思います。適応障害は自身ではなく周囲の環境が原因なので、誰でもなる可能性がありますし、なりやすい人の特徴はありません。しいて言えば、ストレスにうまく対処しにくい人でしょうか。
周囲の環境がどんどん厳しくなっているのも、適応障害の方が増えている理由の一つです。バブル崩壊以降、不況になり、さらには非正規雇用が急速に拡大しました。非正規雇用は給与や社会保障、福利厚生の面で正規雇用より不利な立場にあります。またコロナ禍では、職を失う人や、周囲の人がリストラされて過重労働になった人もいました。「働き方改革」や「ワークライフバランス」という考え方の浸透で改善された面もありますが、厳しい労働環境や立場に苦しんでいる方々も依然として多くいるという印象があります。精神疾患患者数の増加は日本だけでなく、世界的な課題と言われています。労働環境の根本的な改善が必要ではないでしょうか。
 

適応障害かもしれないと感じたら?通院などの正しい対処を知る



――そもそも適応障害にならないためには、どのようなことを意識すると良いのでしょうか。

オン・オフの切り替えを意識することをおすすめします。仕事や学校でストレスを感じることがあっても、オフの時に気晴らしができる時間が少しでもあれば良いでしょう。生徒さん、学生さんは学校が全てという意識になりがちなので、他にも興味を持てるものを作ってあげられると良いですね。社会人は休養だけではなくて余暇の時間もあることが望ましいです。最近はテレワークの退勤後に気持ちが切り替えられなかったり、休日もメールをチェックしたりしてしまう人も多いのではないでしょうか。コロナ禍でテレワークが浸透したことを機に仕事のオン・オフの切り替えがしづらい状況もあると言われています。「休日はメールを見ない、送らない」などの線引きをする、そのような工夫も難しくて仕事から解放される時間がないようでしたら、職場での相談を考えてみてください。

――自分が適応障害かもしれないと感じたら、どうすれば良いですか?

まずは、基本的な体調管理を心がけてみましょう。睡眠をよく取り、栄養のあるおいしい食事を取る。3食きちんと食べて、生活リズムを整えると良いでしょう。それでも具合が悪いと感じる場合は、病院を受診してみてください。しかし、外来患者数が増加していることから、精神科や心療内科は初診予約が取りづらくなっており、受診できるのが1カ月も先になることもあるようです。予約日まで待てない場合や、精神科に抵抗がある場合は、内科を受診するのも一つの手段です。適応障害の患者さんのなかには、眠れない、体調が悪いということから、まず内科を受診したという方も多くおられます。精神疾患の患者さんが増えたことで、内科でも精神疾患の早期発見に努めるように国から指針が出されました。最近は精神疾患について勉強している内科の医師も多く、軽い薬を出してもらったり、精神科・心療内科を紹介してもらったりできるのです。精神疾患の患者さんは、病院に行くと医師に怒られるのではないか、と思っている人も多いかもしれません。医師は患者さんの味方なので、一度勇気を出して病院に行ってみてください。

――適応障害だと診断されると、どのような治療をするのでしょうか。

ストレスの元である環境を変えるのが、根本的な治療法です。社会人の患者さんの場合、理解ある職場であれば、忙しくない部署に異動したり、人員配置を変えたりと配慮してもらえる場合があります。その場合はあまり重症化せず、すっと良くなる方もいらっしゃいますね。ひどく落ち込んでいたり、体重が激減したりと症状の重い方に対しては、最低2週間は休職することをお勧めしています。環境調整をしてくれない職場だと重症化してうつ病になるケースもあるため、転職も視野に入れて検討することもあります。医師は休職などの手続きのために診断書を書きますが、ご本人が「書いてほしくない」とおっしゃることは絶対に書きませんので、安心して診察を受けてください。
他には、投薬などの医療的アプローチも行います。最もよくある症状である不眠に対しては、睡眠導入剤を処方します。十分な睡眠をとり、脳を休めて昼間のコンディションが良くなれば、困難な環境に対処する力も出てきます。食事が取れなくなる方には、食欲が出て気分を持ち上げられる薬を使うことも。薬の力を借りて心身の基本的なコンディションを整えることで、精神も安定してきます。
 

身近な人が適応障害になったら…周囲の人ができるサポート



――適応障害の方に対して、周囲の人はどのようなサポートができますか?

周囲の人々がサポートする場合は、ご本人の立場や気持ちを尊重しながら、その人自身を肯定的に見るようにしましょう。本人は、環境に適応できていない自分に対して、「職場で良く思われていない」「申し訳ない」などのマイナスな感情を持っています。相談に乗ることがあった場合は、たとえ本人に悪いところがあると思ったとしてもそれは表に出さず、「あなたは悪くない。それでいいんだよ」「ちゃんと味方だからね」ということをまずは伝えてあげてください。アドバイスをする際は、本人を否定しないことを意識してほしいです。特に家族の場合は、自宅での療養が長引いても、口うるさくない程度に「無理をしてまで仕事や学校にいかなくてもいいんだよ」というメッセージを伝えると良いでしょう。一人でも自分を評価して味方になってくれる人がいると思えただけで、少し頑張ってみようと思い直す方もいらっしゃるようです。
また、おすすめの病院を紹介するのもサポートの一つです。過去に自分自身や知り合いが通っていた病院を勧めると、前向きに病院に行ってみる気になれるかもしれません。実際に、口コミで来院される患者さんも多いですね。最近では校内のスクールカウンセラーや、職場の産業医、産業カウンセラー、保健師などに相談し、その後、町の病院やクリニックを紹介してもらうというケースも見受けられます。サポートする側の人もストレスを感じるので、負担を感じすぎて本人との関係が壊れてしまわない範囲内で、親身になっていただけるとありがたいと思います。
 

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