INDEX

  1. ただの大学生の自分と、仕事をする大人の自分
  2. 好きだからこそ、苦しみが凪になるまで耐える
  3. すべては叶えられない。それは、やりたいことが多すぎるから
  4. 短冊に「認められたい」と書いた大学生の私へ

INTERVIEWEE

坂本 真綾

SAKAMOTO Maaya

2002年 東洋大学 社会学部 社会学科 卒業

1980年生まれ。東京都出身。8歳より子役としてCMソング、映画・海外ドラマの吹替え等で活躍。1996年にCDデビュー、2009年より精力的にLIVE TOURも開催。2013年にはミュージカル「ダディ・ロング・レッグズ~足ながおじさんより」ジルーシャ役で菊田一夫演劇賞受賞。歌手、声優、ミュージカル俳優、ナレーターのほか活動は多岐に渡り、日本のみならず世界各国のファンから支持を受ける。声優としての代表作は、映画『スター・ウォーズ』シリーズ パドメ・アミダラ役、映画『SING』ロジータ役、アニメ『エヴァンゲリヲン新劇場版』真希波・マリ・イラストリアス役など。株式会社フォーチュレスト所属。

ただの大学生の自分と、仕事をする大人の自分


大学生は、自分のために使える自由な時間がたくさんあるとき。当時、仕事をしながら東洋大学に通っていた坂本さんにとって大学は、自分を「ただの二十歳」に戻してくれる場所でした。
ひとつ目のテーマは、“二十代の私”――。
「ごくごく普通の大学生だったと思います。授業の後は友だちと遊んだり、学食での時間を楽しんだり、4年生になっても単位が残っていて焦ったり……(笑)。その合間に仕事もしていましたが、生涯の友と呼べるような仲間ができたことは、今でも私の財産です。

一方で、仕事場では年齢もさまざまな大人の方たちと接していたので、『子どもだと思われたくない、早く大人にならなきゃ』と背伸びする気持ちもありました。そんなとき、学生として大学にいるときだけは、ただの二十歳に戻れるような気がして。私にとって大学は、本来の自分に戻れる、とても大切な場所でした。

仕事では、たくさんのことに挑戦させていただきました。ずっと続けていた声優や歌手活動、ラジオパーソナリティ……あとは、初めてミュージカル『レ・ミゼラブル』の舞台に立たせてもらったのも大学を卒業して間もない頃です。

とにかく必死で、目の前にある仕事をこなすことで精一杯。無限に広がる可能性の中で、どんな未来を選ぶのが自分にとって一番ハッピーなのかがまだわからなかったんです。だから『これをやってみると良いよ』と言われるものはすべて試してみました。でも与えられた新しい扉を好奇心で色々と開けたはいいものの、やるべきことが多すぎて余裕がなくなるほど必死になることもありました。

苦しいこともあったけれど、そうして“短距離走”を何度もくり返すうちにできることが増えていって、気づいたらできることもやりたいことも増えていた。大学時代を含め、20代はそういう時代だったなと思います。」
    

好きだからこそ、苦しみが凪になるまで耐える

    
新しい課題に向かって、短距離走を続けた日々。そんな中で、やはり「やめたい」「苦しい」と悩むことも少なくなかったと言います。そんな彼女が苦しみを乗り越えられてきたのは、「より良い自分になりたい」という一心があったからだそうです。

ふたつ目のテーマは、“坂本真綾流、苦しみの乗り越え方”――。
「好きなことを仕事にするのって、結構苦しいことも多いんですよね。好きなことほど趣味で終わらせたほうがいいってよく言いますし。

でも、たとえ一年のうちのほとんどが『苦しみ』の時期だとしても、一年に数回訪れる達成感、例えばアルバムが完成したときや、舞台の千秋楽、ツアーの最終日がうまくいったときなど、そういった瞬間にすべての苦しみが帳消しになるんです。やっぱり、やっていて良かったと思う。

苦しいときにやめてしまうと、それはきっと、思い出したくない嫌な思い出になってしまう。だから、自分にとって好きなことは、決してそうならないように、なんとか踏ん張って耐えたり、前に進める道を探すようにしてきました。そして苦しみがいったん凪(なぎ)になったとき、本当にやめたいかどうかもう一度考えようと。

そうして歩んできたら、もう何十年もやめずに続けていました。 これはもしかしたら幸せなことではないかもしれませんが、私は常に『何かが足りない』と思ってしまうんですよね。『手にしているものだけで満足していれば、幸せなのに』ってまわりにはよく言われます。 自分にとって足りないもの。それは、物理的なものではなくて、人から与えられるものでもない。スキルとか、まだ達成できていない“なにか”。私はそれをクリアして、より良い自分になりたい。

もし満足できたらそれ以上努力しなくていいし、もっと気楽でいられるのかもしれません。でももっと成長できれば、今以上にステキな景色が見られるかもしれない。だから私にとって『何か足りない』と思ったり、いつも満足しない自分でいられることは、ありがたいことだと思っています。」
   

すべては叶えられない。それは、やりたいことが多すぎるから

 
歌手、俳優、文筆家、ラジオパーソナリティ……坂本真綾という一本の幹から伸ばした活動の枝葉は、どんどんと成長を続けていきます。
過去と今、そしてこれからの自分。
3つ目のテーマは、“新しいことを始める、その原動力となっているものとは?”――。
「大人になると新しいことに踏み出すのは怖いし、中途半端になってしまうんじゃないかと不安になってしまう。若いときほどそう思っていましたが、年齢を重ねるうちにそんなこと言っていられなくなるんです。私、限られた時間の中で何ができるんだろう?って、そればっかり。もっと若いうちに気づいていれば、いろいろチャレンジしたのにな、と思います。

人生には限りがあって、しかも2回目はない。そう考えれば、『時間がない』なんていう言葉は言い訳でしかないと思うんです。

私は、やりたいことがいっぱいありすぎて、すべてを巻きでやらないと終わらないなと思ってるんです。それでも多分、間に合わない(笑)。 行きたい国はまだまだいっぱいあるのに、私はあと何回海外に行けるんだろう。もっといろいろな種類の犬を飼ってみたいけれど、多分飼えてあと数匹かな。そう考えていくと、私の夢はもう多分、ほとんどが叶わないんだなって思います。

だからこそ、叶えられそうなものは手当たり次第、叶えていったらいいんじゃないかって。人生は、今日が一番若いんです。過去のことはもうどうにもならないけれど、今日のことなら変えられますから。年齢にとらわれずに、自分のやりたいこと・やらなきゃいけないことを、これからも一つひとつ白地図を塗るようにどんどん埋めていきたいと思っています。」
    

短冊に「認められたい」と書いた大学生の私へ

  
著書『アイディ。』(星海社文庫)の中で、七夕のころ大学の門に飾られていた笹に「認められたい」と書いた短冊をかけた、というエピソードがあります。その頃の自分を振り返って、今彼女が思うことを、最後に聞いてみました。

「今思えば、あの頃の自分は本当に……かわいそうに、と思います。自分では大人になっているつもりだけれど、周りから見たら当然ただの子どもです。視野の狭さやいろいろなものへの不安、自分の言いたいことがうまく伝えられないもどかしさ。そういったものから、認められたい、何者かになりたいという気持ちが強かったんだと思います。

でも、そうやって苦悩していたことはまったく無駄ではなくて、それらが蓄積された今のほうが楽しい。年を取ってからのほうがいろいろなことを味わえるようになったので、投げ出さなかったことを褒めてあげたいですね。深刻に悩みすぎていたので『かわいそうに』とも思うんですけど(笑)。

そのとき、いろいろなものを投げ出さずに、苦しみながらも続けてきたことがとても良かったと思っています。私自身の経験から若い方たちに何か言えることがあるとすれば、なんでもいいから、日記でも習い事でも、何かを10年、20年続けることは絶対に将来につながるはず。とにかく何でもやってみて、できるだけ続けてみる。その尊さを大切にしてほしいと思います。」
   

この記事をSNSでシェアする