INDEX

  1. 切り絵との出会い
  2.  尽きることのない創作意欲
  3. 海外での新たな挑戦

INTERVIEWEE

百鬼丸

HYAKKIMARU

本名 渡辺文昭(わたなべ ふみあき)
1974年東洋大学工学部建築学科(現・理工学部建築学科)卒業
切り絵アーティスト

27歳で切り絵を始め、40年以上第一線で活躍を続ける。サンデー毎日の表紙連載、書籍カバー画800冊、月刊、週刊、新聞連載挿し絵も入れると1万点以上の作品を制作。平面、立体、切り絵ライブ、似顔絵等幅広い技法を得意とし、自主制作も精力的に行っている。2017年にはJ-Collabo O&S Shimoda Institute Award賞を受賞。

切り絵との出会い

画像:百鬼丸さん    
─百鬼丸さんが切り絵を始めたのはいつごろだったのですか?
   
「27歳のときです。東洋大学の建築学科を卒業後、設計事務所や芸能関係の仕事など、いくつかの職業を転々としたのですが、やっぱり『モノづくりで人生を渡りたい』と、一念発起。愛知県にある常滑焼の窯にやっかいになったんです。」   
─焼き物から切り絵にどのようにつながっていくのでしょう?
   
「焼き物を始めたものの、周りの同年代の焼き物作家たちはすでに独立してプロになっている人ばかり。彼らと競争するためには、何か『付加価値のある』焼き物から始めないと敵わないなと思いました。そこで思いついたのが、子供の頃に得意だった版画の手法を取り入れた、器の表面に切り抜いた粘土を貼り付けること。
  
それを始めてからは、何をしている時でも、模様の新しいイメージが次々に湧いてくる。そのイメージを残しておくために、粘土の代わりに紙を切って保存するようになったのが僕の切り絵の原点となっています。」  
    画像:一つひとつ繊細に切られた縄のモチーフ・百鬼丸作
   
─そうだったのですね。もともとモノづくりに自信があったのですか?
   
「子どものころから手先は器用な方で、絵を描いたり、版画を彫ることが得意でした。切り絵作家になる前から毎年、年賀状用に版画を彫ったりしていたものです。しかし陶芸を辞めて切り絵作家になると決めたのは、切り絵が日に日に上達していき、そのテンポの速さが、他の切り絵作家を追い抜けるんじゃないかと思うくらいだったからです。実際その通りになれたと自分では思っています(笑)。冷静に、自分自身を見れていたんだと思います。」
   

 尽きることのない創作意欲

画像:百鬼丸作『武田信玄』
   
─切り絵の道に進むことを決めた当初は不安もありましたか。    
「若かったせいか、あまりありませんでした。やっていると上達が驚くほど早く、それが快感でしたね。仕事は文庫本のカバーや雑誌の表紙、小説の挿絵といった仕事がほとんどでしたが、アマチュア生活を2年ほど過ごし、そこから半年で切り絵作家として生活することができるようになりました。早かったですね。」   
─百鬼丸さんが切り絵を作り続ける原動力は、どんなところにあるのですか?
   
「やはり、幸せなことに『描きたい、作りたいものが次々と頭に浮かぶ』ことと、『自分が切り絵の世界でNO.1なんだという証明をしたい意欲』でしょうか。もう40年近く切り絵をやっていますが、出版社などから依頼されて制作することが大半で、オリジナルの作品を発表するようになったのは、実はここ15年くらいのことなんです。そういう意味での“切り絵作家”としての歴史はまだ浅いと言えるかもしれません。
   
いずれにせよ、創作したいものがなくなった経験は一度もありません。いつも湧いてくるアイデアに手が追いつかないくらいです。それほど切り絵に魅了されているのでしょうね。」
   

海外での新たな挑戦

画像:東京都渋谷区の「ART IN GALLERY」で行われた展示即売会の一角。実際に作品を購入することができる。
   
─パリやシカゴ、ニューヨークなど、海外でも精力的に活動されているそうですね。作品への反応は日本と違いますか?    
「これまでもキャリアの中で何度か海外で作品展示を行ってきましたが、昨年(2017年)は、初めて海外のコンペティションにも参加し、賞を受賞することができました。その副賞として今年(2018年)、5月から3か月間にわたり、ニューヨークで創作活動し、2週間の個展をすることができました。展覧会では、作品は大変な人気でしたね。
   
海外は、美術品が桁違いに大好きな方が多いです。彼らは自宅でパーティーをする文化があり、絵画を飾るのが『おもてなし』手段のひとつとして必需品でもあり、自慢でもあるんです。そこが日本との美術への接し方の違いかと思います。切り絵は、未開拓なアート技法で非常に注目度が高いと思いますね。そうはいっても、アート全般にいえることですが、まだ誰もやっていないことを考え出す『Only one』が、大切だと思います。   
─今後の目標を教えてください。
   
「日本、そして世界の方に驚くような切り絵を制作して、『切り絵でこんなことが出来るのか!』というアートとしての存在を誇示し認められたいと考えています。最近では、多くの方々の興味を持ってもらうため、新しいことに積極的にチャレンジしています。
  
たとえば、立体作品だったり、お客さんの前でする切り絵ライブだったり、紙芝居を行ったり、これまでにないニューヨークで展示した2~4mの巨大な切り絵作品だったりです。『伝統の中にもチャレンジあり。』常にそんなスタンスがあれば、さらに切り絵文化が世界に広まって行くと考えています。   
─最後に、百鬼丸さんにとって切り絵はどんな存在ですか?
   
“人生のすべて”……みたいになってしまっている感じですけど、それだけだといけないなと思っています(笑)。これからも適度に“よそ見”をしながら、切り絵への情熱を絶やさずにいられたら嬉しいですね。」
   

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