INTERVIEWEE
秋竹サラダ
AKITAKE SALAD
東洋大学理工学部電気電子情報工学科 卒業
作家
1992年2月29日生まれ。埼玉県鴻巣市出身。『魔物・ドライブ・Xデー』(本作の応募時のタイトル)で2018年、第25回日本ホラー小説大賞〈大賞〉と〈読者賞〉をダブル受賞。同作を改題した本作『祭火小夜の後悔』でデビュー。
五感を刺激する恐怖。秋竹流、ホラー小説の描き方
画像:秋竹サラダさん―この度は日本ホラー小説大賞、読者賞の同時受賞おめでとうございます。W受賞は史上初だそうですね。
「ありがとうございます。自分としては読者賞を狙って応募したのですが、大賞と同時受賞と聞いたときは非常に驚きました。」
―秋竹さんがホラー小説大賞に応募されたきっかけについてお聞かせください。
「もともと選考委員でもある綾辻行人さんや、乙一さんのホラー短編、テレビの心霊番組が好きでした。ホラーを選んだのも、今回の作品を書き始めた時期がちょうど昨年の8月くらいだったので、『夏といえばホラーだよな』という安直なイメージからですね。もし書き始めたのが夏じゃなければ、全く別のジャンルの作品になっていたかもしれません(笑)。」
―執筆のアイデアは、どのように得られているのでしょうか。
「僕は、書き進めているうちにアイデアが湧いてくることが多いのでまずは書いてみたり、実際に経験した物事を参考にすることが多いです。『祭火小夜の後悔』でいえば、語り手たちと物語のキーパーソンである祭火小夜が魔物に追いかけられながらドライブをする第4話が特にそうですね。山奥で車を運転していたときに感じた、どこか不気味で別の世界に来てしまったような…実体験で感じた雰囲気をもとにしています。」
―『祭火小夜の後悔』では、「人ではない何か」が語り手を脅かす様子が音や気配、匂いなど五感を刺激する形で描かれているのも印象的ですよね。
「作品を執筆するうえで、稲川淳二さんが語る怪談の表現も参考にしています。稲川さんの語る怪談がなぜ怖いのかというと、話の内容はもちろんですが突如として挟まれる『ドン!』や『ガタガタッ!』といった効果音にありますよね。もとは行間を膨らませる狙いもあったのですが、稲川さんの怪談を参考にしたことで、より恐怖が増幅される形になったと思います。」
執筆活動のきっかけは、大学時代のレポート漬けの日々
―秋竹さんは以前から執筆活動をされていたのでしょうか。
「本格的に書き始めたのは、社会人になってからです。当時働いていたクリニックが倒産して無職になってしまった時に、大学時代に趣味で小説を書いていたことを思い出して。時間もあるし、また書いてみようかなと。」
―そんな背景があったのですね。東洋大学では意外にも理系の理工学部に在籍されていたそうですが、どのような学生生活でしたか?
「専攻していたのが電気電子情報工学科だったので、関連する分野の様々な実験を行い、レポートを書く毎日でした。理系の方にはご理解いただけると思うのですが、理系はレポートを書く機会が本当に多いんです。
1週間から2週間ほどの実験で10ページにもわたるレポートを書くこともざらで、書くスピードも自然と上がっていきました。そんな日々を過ごすうち、『レポートをここまで書けるのなら、小説だって書けるのでは?』と思ったこともありまして。」
―レポートを大量に書いた経験が小説の原点となっていると。
「レポートは実験結果を踏まえた考察が大事なのですが、実は小説を書くのと似ているんです。実験によってどのような結果が導き出されたのかをストーリーラインを作りながら述べる……、しかも、そこにオリジナリティを加えなければ良いレポートとして認められず、良い評価ももらえません。おかげで、筋道を立てて書くことや、思考力がかなり鍛えられたと思います。
あとはパソコンの前に座って、文章を書き続ける忍耐力もつきましたね。理系出身であることは、小説家として私の土台になっています。」
―なるほど。レポートが作家「秋竹サラダ」を生んだといっても過言ではないですね(笑)。
現実世界に“異質なもの”が混ざり込む作品を書きたい
―『祭火小夜の後悔』は発売にあたり、応募時からタイトルを変更、加筆修正もされたそうですね。
「応募時は『魔物・ドライブ・Xデー』というタイトルだったのですが、選考委員の宮部みゆきさんから作中に登場する祭火小夜という女の子のキャラクターがとても良いので、タイトルにもその名前を入れたほうが良いとアドバイスをいただきました。小夜は当初、怪異について解説をする便利役でしかなかったのですが、小夜自身の葛藤をクローズアップする形で加筆修正しました。」
―宮部みゆきさんは選評で「ヒロイン・祭火小夜の清楚な魅力と、全体に淡く漂う叙情性にも惹かれました」とおっしゃっていますね。小夜のモデルとなった人物はいるのでしょうか。
「特にモデルはおらず、“儚げで大人しく、黒く長い髪の女子高生”というある意味、ありがちな造形ではあるのですが、読んだ方から愛されるキャラクターとなっているのなら嬉しいです。」
―秋竹さんご自身が、『祭火小夜の後悔』の登場人物で気に入っているキャラクターはいますか。
「第3話に登場する怪異、“しげとら”は面白く書けたと思います。“しげとら”は最初からアイデアがあったわけではなくて、『不気味な男に絡まれる話』を書こうとしたときにふと思いついた名前でした。」
― “しげとら”のように、最初にキャラクターがあって後から設定や物語の内容そのものの展開ができていくのでしょうか。
「そうですね。最初からストーリーやオチを全て決めることはなかなか難しいので、実際に書き進めながらストーリーを固めていくことが多いです。例えば、第4話は『橋を落とす』という展開が書きたかったので、『橋ってどうやったら落とせるのかな?』と逆算してストーリーラインを作っています。」
―今後、書いてみたい作品はありますか。
「やはりホラー大賞をいただいたということもあるので、引き続きホラー作品を書いていきたいですね。ただ、おどろおどろしい雰囲気を持ったホラー作品ではなく、現実の世界に“異質なもの”が混ざり込む、不思議な温度感のものでしょうか。」
―今回の『祭火小夜の後悔』も不思議な温度感がありますね。次回も楽しみにしています!では、最後に読者の方へのメッセージをいただけますでしょうか。
「『祭火小夜の後悔』は、短編形式なので、気軽に読んでいただけるのではないでしょうか。ホラーが好きな人はもちろん、苦手な人も楽しめる作品になっていると思います。」
大学生活の経験が導いた、作家への道
理系学部を卒業後、クリニックで働くも職場がなくなり、書いた小説がホラー大賞を受賞……という、驚くべき経緯で完成した秋竹サラダさんのデビュー作。女子高生、祭火小夜の周囲に起こる不思議な出来事を描いた今作は、デビュー作と思えないほどの完成度を誇る作品です。
「どこかで本当に起こることかもしれない」と読者に思わせるほど、リアリティのある描写と、どこか懐かしさも感じる青春ホラー、『祭火小夜の後悔』。ぜひ、あなたも手にとってみてはいかがでしょうか。