INTERVIEWEE
白石 昌則
SHIRAISHI Masanori
“学生のフレッシュな感性に触れたい…” 白石さんが新卒で生協に就職した理由とは?
画像:現在東洋大学白山キャンパスにある生協にて、店長を務める白石昌則さんひとことカードをのやりとりを見ていると、とても仕事を楽しんでいるように見える白石さん。 どのようなマインドで生協の職員となり、そして学生とのユーモア溢れるやりとりが始まったのでしょうか。 まずは、白石さんが生協職員になった理由や、ひとことカードに携わることになった経緯をお聞きしました。
※生協のひとことカードとは、大学生協に向けた品揃え等の要望を組合員(学生)が書き、それに対して職員が回答し、掲示板等に貼り出す意見書のようなものです。 時には個人的なお悩み相談など、幅広い内容の質問が寄せられます。
ーなぜ白石さんは生協で働こうと思ったのでしょうか?
「私は新卒で生協職員になったのですが、学生時代に就職活動を行っていた時は、様々な企業を視野に入れていました。 しかし、社会人になって自分が歳を重ねていくことを考えた時に、学生の方々を相手にお仕事ができる生協職員という職業にすごく魅力を感じたんです。常にフレッシュな感性に触れることができると言いますか…。」
ーなるほど。 白石さんのひとことカードへの回答は、学生たちとのユーモア溢れるやりとりが大きな話題を呼びましたが…もともと就職活動の時から学生たちの感性に魅力を感じていたんですね。 新卒で就職して、いつ頃からひとことカードへの回答を始めたのでしょうか?
「新卒で就職してから10年間は早稲田大学の生協で旅行担当として働き、その後東京農工大学(以下:農工大)の生協へ移ってからです。 農工大では、ちょうど私の前任の方がひとことカードを導入したばかりで、『こういう回答をしなさい』というルールはほとんどありませんでした。前任の方から引き継ぎを受けた時も、『白石さんは白石さんなりに、ひとことカードへ自由に回答して良いよ』と言われたことを覚えています。 なので、最初のうちは商品についての真面目な要望に対してはこちらも真面目に回答をし、たまに来る学生らしい脱力系のコメントに関してはこちらも少し脱力した感じで、遊び心を取り入れた返答をしていました。」
遊び心が、商品を売るカギとなる?
画像:東洋大学白山キャンパス、生協内での白石さんーその脱力した雰囲気のやりとりがネットで話題となり、書籍にもなったんですね。 具体的に、脱力系のコメントとはどんなものがあるのでしょうか?
「例えば、“生協に牛をおいてください”とかですね(笑)。 ただ、ひとことカードって学生に見てもらうために回答を記入してから掲示板に貼りだすんですよ。その時に、あまりにも商品に関係のないやりとりばかりになってしまっては、本来の役割を果たせなくなってしまうと懸念していました。」
ー遊び心を持ちつつも、ひとことカードの本来の役割とのバランスに悩んでいたのですね。
「そんな時に、明らかに男性の筆跡で“胸が大きくなりたいから、バストアップできる商品を入れてください”というコメントが来たんですよ。ここで、最初は至極真っ当に“申し訳ありません。当店にはそのようなお取り扱いはございません。”と書いたんですが、スペースが大分余ってしまって…。 よくよく考えてみると、“男性が書いている訳だし、こういうことを書いて欲しいんじゃないんだろうな”と思って、少し脱力して“胸囲の増加をはかるという意味ではプロテインならお取り扱いがありますよ”と付け加えたんです。 すると、掲示板でそのやりとりを見た体育系の部活の学生が“生協にプロテインがあるとは思わなかった!プロテイン1ダースください”と来たんです。」
ーそれで、実際にプロテインは売れたのでしょうか?
「売れたんですよ! その出来事がきっかけで、ひとことカードに書いた商品は注目される可能性が高い”ということに気がつきました。 そこから、脱力系のコメントに対しても商品の情報を取り入れた回答をすれば、購買に繋がると考えるようになったんです。」
画像:東洋大学白山キャンパス生協前に掲示されていた、白石さんと学生のやりとり
ー他にも、脱力系のコメントに対して商品を結びつけたケースはありますか?
「プロ野球チップスですかね。プロ野球チップスと、Jリーグチップスを取り扱っている時期があって、それぞれ選手のカードが入っているんですよ。 当時Jリーグがすごい人気だったこともあり、Jリーグチップスはよく売れるんですが、プロ野球チップスがあまり売れなかったんです。“このままでは賞味期限が切れてしまう…”と悩んでいました。
そんな時に、それぞれの商品に展示用の見本カードがついていることに気がついたんですが、Jリーグチップスは当時大人気だった中村俊輔選手だったのに対し、プロ野球チップスは知る人ぞ知る、ヤクルトの土橋勝征選手だったんですよ。“この対比は面白い。ひとことカードに書いたら、売れる!”と思いました。 そんな時に、“生協はいつになったら紀伊国屋書店みたいに大きな建物になるんですか?”というコメントが来て、“ここだ!”と。
そのコメントに対して、“紀伊国屋書店みたいに大きくなったら私たちも嬉しいんですが、ところでプロ野球チップスの売り上げが芳しくありません。見本が土橋だからですかね。でもプロ野球チップスの全部のカードが土橋だとは限らない。他の選手も出ますよ。この課題をクリアすることが、紀伊国屋計画の一歩かもしれません。”って返答したんですよ。」
ープロ野球チップスと全く関係のないコメントに対して、その回答をするのは流石ですね。 その後、どうなったんでしょうか?
「それを見た野球ファンの学生から、“今年も中日が優勝しますから。”と、また商品とは関係のないコメントが来たんですよ。そこで最初は野球について返答したんですが、スペースが余ったので“昨日試しにプロ野球チップス買ってみました。土橋でした。”と書いたんです。 すると、“本当にこの生協のプロ野球チップスは土橋ばかりなのか”と研究する学生たちが出てきて、土橋が出るまで70個以上買ったグループまで現れました(笑)。 そのおかげで、最終的にはJリーグチップスよりも売れるようになって、廃棄を回避したんです。 遊び心から出た返答が功を奏したと言えますね。」
遊び心と成果のバランスを保つコツとは?
ー遊び心を取り入れつつも、“人気のない商品を人気商品にしてしまう”という難しい業務まで成し遂げてしまう白石さんは、仕事を楽しみつつしっかりと成果を上げるという、素晴らしい働き方をされていると思います。 そういった働き方を実現するためのコツはありますか?
「私もコンスタントに毎日の仕事がすごく楽しいという訳ではありません。もちろん、余裕がなくて苦しい時もあります。 でも、与えられたフィールドの中で、『こうしたら面白いかな?』と思うことがあれば試してみるように心がけています。
それが結果的にお叱りを受けることに繋がってしまう場合もありますが、大抵人に注目される仕事って遊び心が散りばめられていることが多いと思うんですよね。 遊び心を忘れずに楽しく仕事をしていれば、それは周りにも伝わるし、周りを巻き込みやすくなる。周りを巻き込むことができると注目されるし、1人では達成できなかった、大きな成果が表れてくると思います。
そして、成果が出るとさらに仕事が楽しくなるんですよ。ひとことカードを通して商品が売れた時は、やっぱりすごく嬉しいですね。」
ー確かに、プロ野球チップスのお話などを聞いていると、白石さんは人を巻き込むことがとても上手な印象を受けます。そして、それが結果に繋がっていると。 人を巻き込むために、“与えられたフィールドに遊び心を取り入れてみる”以外にも何かコツはありますか?
「周りの人たちと積極的に話をするということですかね。これは、仕事仲間だけじゃなくて、家族や友人とも。答えを求めて話している訳じゃなくても、何気ない会話から大きなヒントを得られることって多いんですよ。
例えば、以前ひとことカードで“(*´Д`)ハァハァ”って書かれてきたことがあって、“なんて返事をしよう”と考えながら家に帰って、世間話のつもりで妻に話したんですよ。“ついにこんなひとことカードまで来ちゃったよ”って。 そしたら妻に“最近暑いしねー。”と言われて、そこで回答を閃いたんです。“暑いと思わず息も上がっちゃいますよね。当店ではアイスをキンキンに冷やしております。”と返せば、商品にも繋げられると。 “こんなことがあってね”と何気ない日常会話をすることが、思いがけず仕事に役立つことって意外とあるんですよね。周りを巻き込むことにも繋がりますし。」
仕事に遊び心を取り入れながら、周りの人とのコミュニケーションを大切に
仕事がつまらないと感じる時は、自分が与えられたフィールドで仕事を全うすることに集中してしまいがちです。 しかし、制限のある中でも視野を狭めずに、遊び心を持つ余裕を忘れてはいけません。「これをやったら面白いのではないか」と考えたことを実践していけば、何気ない日々の業務が楽しくなることでしょう。また、仕事が行き詰まっている時はもちろん、そうでない時も、周りの人たちとのコミュニケーションは大切です。ふとした瞬間に、1人では思いつかなかったアイディアをもらうことができ、さらに周りの人を巻き込んでいくことにも繋がるでしょう。 仕事に遊び心を取り入れること、周りを巻き込んでいくこと、そして周りの人たちとコミュニケーションを取ることを心がけながら、日々の業務と向き合ってみてはいかがでしょうか。今までと同じ仕事が、今までよりも楽しくなるかもしれません。