INTERVIEWEE
林 ゆうき
HAYASHI Yuki
劇中作曲家、レジェンドア所属 1980年生まれ、京都府出身
京都市立紫野高等学校時代に男子新体操の選手となり、東洋大学入学後も選手として活躍する。東洋大学在学中、自身が演技する楽曲を作り始めたことから作曲家の道が始まる。現在はNHKの朝ドラや、国民的人気アニメ、数々の映画のサウンドトラックを作曲している。
新体操選手から音楽の道へ。はじめの一歩は“自分ができること”の把握
画像:林ゆうきさん高校生の頃から男子新体操に熱中し、東洋大学に入学した林ゆうきさん。大学に入学するまでは、音楽は聴く専門で、楽器が弾けなかったと言います。 しかし、大学在学中に独学で作曲をスタートすることを決意。きっかけは何だったのでしょうか。
「男子新体操は、フィギュアスケートと同じように音楽に合わせて競技をするので、楽曲選びがとても重要なのです。 さらに選んだ楽曲は、競技の動きに合わせて専門家にアレンジをお願いします。しかし、アレンジを担当する方は競技をしたことがないので、細かいイメージが伝わりづらくて…。 すごくもどかしい思いをしたので、それならいっそのこと自分でやってみようと思ったのです。」
―音楽経験がゼロの中で、どのように楽曲作りを始めたのでしょうか?
「最初は完全に独学です。お年玉を握りしめて、パソコンだけで作曲ができるソフトを買いに、秋葉原へ行きました(笑)。」
―独学で始めた作曲を仕事にしようと思ったのはなぜですか?
「当時は新体操選手の就職先がかなり限られていたので、新体操でご飯を食べていくのは難しいと判断しました。 “じゃあ何をしようか?”と悩み、『自分のできること』『自分のできないこと』を紙に列記していったんです。 音楽経験は『ない』。音楽理論も『ない』。でも、新体操は経験がある。新体操の伴奏に求められているニーズも知っている。そんな自分が作る伴奏曲は、他の選手からも需要があるのではないか。 そう思い、在学中から伴奏曲の制作・アレンジを始め、新体操の伴奏曲作家としてのキャリアをスタートさせました。」
ニーズを正確に“汲み取る力”で、ドラマ、アニメ、映画作品のオファーが殺到!
画像:作曲をする林ゆうきさん新体操の伴奏曲から作曲家としてのキャリアをスタートした林ゆうきさん。数年でインターハイ優勝チームの伴奏を手がけるなど、新体操の伴奏曲では高い評価を獲得し、あわせて独自の音楽理論も形成したことで、自身のキャリアアップを目指していきます。 そして、異なるフィールドの仕事も経験してみたいという想いから、2009年の関西テレビ開局50周年ドラマ『トライアングル』の劇中音楽を担当したことをきっかけに、アニメや映画など活動の幅を拡大していきました。
―新体操の伴奏曲と、ドラマやアニメ、映画の劇中歌では、同じ音楽でも全く異なるジャンルだと思います。双方で作り方の違いなどはないのでしょうか?
「新体操の伴奏曲の場合、あらかじめ披露する技や動きが決まっていて、それに合わせて音楽をアレンジしていくのが一般的な作り方です。
しかし、ドラマやアニメの劇中曲は、依頼をいただく段階で作品ができていないので、映像に合わせて音楽を作るということができません。そのため、ドラマは選曲家、アニメは音響監督という方からメニュー表というオーダーシートをいただきます。
メニュー表には、作って欲しい音楽の尺やリズム、その音楽を使用するシーンの内容や登場人物の心情などが書かれています。 ドラマやアニメのお仕事では、先方のイメージから音楽を作っているので新体操の時とは大きく異なりますね。 映画の場合は映像ができてから依頼をいただくことが多いので、映像に合わせて作ることができるのですが。」
―アニメやドラマの場合、映像がないのですね。 先方のイメージから音楽を作るのはすごく難しそうですが…。
「メニュー表の指示に加え、最初の打ち合わせで、メニュー表には書かれていない作品全体の意図やターゲット、作品への思いなどを監督から伺います。
ただ、それだけだと的確にイメージを捉えきれていない場合もあるので、他のスタッフさんにヒアリングしたり、原作を読んだり、資料を調べてみたりと、その作品に関わっている様々な人からお話を聞き、自分なりに作品のイメージをより綿密に構成していきます。 そうすることで、先方のニーズを的確に把握していきます。」
―顧客のニーズを徹底して理解し、それに応える姿勢が大切なのですね。
「劇中作曲家という仕事は、音楽が作れれば良いという訳ではありません。 曲を作れるのは当たり前で、求められるのは『汲み取る力』。さらに、先方のイメージを的確に汲み取った上で、直接的なオーダーに応えるものと、付加価値として自分ならではのプラスαの選択肢も提供できると良いと思います。
例えば、僕は先方の指示をそのまま形にした曲と、先方が予期していない曲の2パターンを提出したりします。『こういうイメージだと思いますが、こういうパターンはどうですか?』って。 先方は、楽曲作りのプロではないので、イメージに対するオーダーがもしかしたら的確ではないかもしれません。
オーダー通りのものを作るのはもちろん、先方のイメージを元に、自分が思う最適な音楽も作ってみる。そうすることで、先方の要望以上の曲を提案することができます。」 動画:林さんがクライアントの要望を音に変えていく作曲の様子
できないことはやらない!徹底した自己分析と人の意見に耳を傾ける姿勢で、生産性もクオリティも向上する
“イメージをカタチにする力”と“汲み取る力”で、数々の人気作品の音楽を担当してきた林ゆうきさん。 先方の要望に的確に応えるために、相手の話を聞くだけでなく、自己分析や、人に頼ることも大切だと言います。
―多様なニーズに応えた作品を作る中で、制作に行き詰まることはないのでしょうか。
「もちろんあります。 でも、どうしてもアイデアが思い浮かばなかったり、方向性が合っているのか不安なときは、選曲家さんや音響監督さんに直接意見を聞いちゃいますね。その都度その都度、先方と密にコミュニケーションを取ることで、制作物のズレを解消します。
また、僕はヴァイオリンを弾けませんし、ピアノも下手です。譜面も書けないし。じゃあ、僕にしかできないことはなんなのか?それは曲のトータルデザインです。 なので、自分ができない分野のことで悩んだ時は、それを得意としている人に助けてもらいます。実際に曲を作っていく中で、プロのギタリストさんが“こうした方が良いんじゃない?”とアドバイスをいただくこともありますね。
もちろん、トータルデザインは僕なので、違うと思った時はその意思を伝えますし、純粋に良いと思った時はそういった方々の意見を取り入れます。明確に自分にできることとできないことを把握し、他の人の意見に耳を傾けることも、最終的に質の高い音楽を制作する上でとても大切なことだと思います。」
―作曲家の方は、0〜100まで自分でやるイメージがあったので、意外です。
「実際にそういう人が多いですし、誰かに仕事を頼んだり、誰かに意見を求める時に『伝えにくいから、自分でやる』という方もいます。 今だからこそ言えますが、それなら単純に“伝えるスキル”を身につければいいのです。どんな仕事であろうと、いちばん大事なのはコミュニケーション。そこが上手くいくと、効率も質もあがっていくはずです。」
「映像✕音楽=感動」の方程式!?“+”ではなく“✕”で生み出す感動を世界に届けたい!
画像:林ゆうきさんの制作現場新体操の伴奏曲から始まった作曲家のキャリアは、ドラマ、アニメ、映画とどんどんと活躍の幅を広げています。 顧客のニーズに応える最適な音楽を作る中で、林ゆうきさんは、自身の仕事のやりがいや、今後の展望についてどのように考えているのでしょうか。
―作曲家としてもっともやりがいを感じるのはどんなときですか?
「映像と音楽の関係性を『+(足す)』ではなく、『✕(かける)』にできた瞬間です。音が鳴る瞬間を0.5秒ズラしたり、少しだけボリュームをあげたり、ピアノをどちらの手で弾くのかなどちょっとした変化ですが、映像とリンクすることで劇的な変化を生むのです。 それがハマったときは、本当に鳥肌が立ちますね。」
―では、音楽単体で見たときに、気をつけている点はありますか?
「作品を観ないで聴く方に向けた制作を意識しています。音楽だけを聴いてもらって、イメージを伝えられたり、感動を生むことができれば最高ですね。他の作品や番組、CMなどで二次使用されたときは、それを実感できます。楽曲そのものが評価されたということですので。」
―今後の目標や夢はありますか?
「最終的には海外の映画音楽を作るのが夢ですが、まずはドラマでもアニメでも挑戦してみたい。日本のアニメは海外に輸出されることが多いので、そこがきっかけになればと思っています。その実現に向けて、一歩ずつ進んでいるところですので、期待してください!」
“なにを求められているか”“何ができるか”を意識して、日々の仕事と向き合おう
音楽経験ゼロからスタートした林ゆうきさんが人気作曲家に上り詰めた背景には、同氏の才能や音楽的センスはもちろんのこと、的確な顧客ニーズの把握がありました。 さらに、自己分析によって“自分だけの武器を見極めると同時に、自分の得意分野でないことは他の人の話に耳を傾ける”といった人に頼ることも重要です。いま自分が求められていること・できることをしっかりと把握することで、相手の要望に的確に応えるだけでなく、相手の要望以上のものを提供できるようになるでしょう。林ゆうきさんの仕事術を意識的に取り入れ、いつもと同じ業務の進め方を少し変えてみてはいかがでしょうか。